Beastie Boys - Licensed To Ill (1986)
Beastie Boys『Licensed To Ill』――ヒップホップが全米1位に届いた瞬間
Beastie Boysの『Licensed To Ill』は、1986年にDef Jam Recordingsからリリースされた、グループ初のフル・アルバムである。もともとニューヨークのハードコア・パンク・バンドとして出発した彼らが、ラップを本格的に取り込み、ロックの感覚も残したまま一気に広い層へ届いた作品として知られている。Def Jamの初期を代表する1枚であり、レーベルの勢いと、80年代半ばのヒップホップが持っていた拡張性をそのまま刻んだ内容になっている。
このUS盤は、ジャケットの背表紙に「FC 40238」、レーベル面に「C 40238」と表記された初期仕様で、見開きジャケットと印刷インナー付き。Columbia Records/CBS Inc.製造のクレジットが入り、1986年当時のCBS流通下のDef Jam作品らしい体裁を持つ。盤面のランアウトはエッチングのみで、同じカタログ番号でもDMM刻印のある別バリエーションとは区別される。
アルバムの位置づけ
Beastie Boysにとって『Licensed To Ill』は、単なるデビュー作以上の意味を持つ。パンク寄りの荒さ、3人の掛け合い、サンプリングを前面に出したビートが同居し、後の彼らの柔軟な作風の出発点になっている。のちにバンドは『Paul’s Boutique』でサンプリングの密度をさらに高め、『Check Your Head』以降は演奏感覚も強めていくが、その起点にあるのがこの1枚だ。
制作面ではRick Rubinの存在が大きい。Def Jamの共同創設者でもある彼のプロダクションは、硬いドラムと分かりやすいフックを前面に押し出し、ロックの耳にも届く構成を作っている。Run-D.M.C.とAerosmithの「Walk This Way」が示した、ロックとヒップホップの接続点を、アルバム全体のフォーマットで押し広げた感触がある。
収録曲とヒット曲
本作で最も知られているのは「(You Gotta) Fight For Your Right (To Party!)」だろう。大学生のパーティー文化をそのまま肯定する歌ではなく、当時のそうした空気を皮肉る意図で書かれた曲として語られている。ただ、そのアイロニーは広く共有されず、結果としてパーティー讃歌として大ヒットした。メンバー自身が複雑な思いを抱いた、というエピソードもよく知られている。
もう1曲の大きな代表曲が「No Sleep Till Brooklyn」。タイトルからして地名を強く押し出した、勢いのあるアンセムで、Beastie Boysのニューヨーク性をわかりやすく伝える。ギターのリフ感覚とラップの勢いが噛み合い、当時のヒップホップ作品の中でもロック寄りの手触りを持つ楽曲として印象が残る。
1980年代ヒップホップの文脈
1986年は、ヒップホップがクラブやストリートの文化から、アルバム単位で大きく広がっていく時期だった。Public Enemyのように政治性を強める流れもあれば、Run-D.M.C.のようにロックと接近する流れもある。その中でBeastie Boysは、白人3人組のラップ・グループという当時としてはかなり目立つ存在で、しかも単なる模倣ではなく、パンク由来の荒さやユーモアを持ち込んでいた。
『Licensed To Ill』は、その異物感が強く出た作品でもある。ラップの語り口は軽快だが、演奏の圧は強い。サンプリングとバンド感の境目がまだはっきりしていて、その粗さがかえって1986年らしい質感につながっている。後年の洗練されたヒップホップ作品と比べると、構成は直線的で、曲ごとの押しの強さが前に出る。
セールスと評価
『Licensed To Ill』は1987年3月7日にBillboard 200で1位を記録し、ヒップホップのアルバムとして史上初の全米チャート首位作となった。その後も7週連続で首位を維持し、2015年にはRIAAからダイヤモンド認定を受けている。商業的な成功という面では、80年代ヒップホップの枠を超えていた作品だ。
一方で、このアルバムはBeastie Boysのすべてを代表するわけでもない。のちの彼らは、サンプリングの細やかな編集、楽器演奏、より複雑な構成へ進んでいく。その意味で本作は、バンドの最初の到達点であり、同時に出発点でもある。粗削りな勢い、ヒット曲の強さ、Def Jam初期の空気感。その3つがそのまま閉じ込められた1枚として、今も語られ続けている。
トラックリスト
- A1 Rhymin’ & Stealin’ 4:08
- A2 The New Style 4:35
- A3 She’s Crafty 3:36
- A4 Posse In Effect 2:27
- A5 Slow Ride 2:56
- A6 Girls 2:14
- A7 Fight For Your Right 3:28
- B1 No Sleep Till Brooklyn 4:07
- B2 Paul Revere 3:42
- B3 Hold It Now, Hit It 3:29
- B4 Brass Monkey 2:38
- B5 Slow And Low 3:37
- B6 Time To Get Ill 3:37