Black Sabbath - Heaven And Hell (1980)
Black Sabbath『Heaven and Hell』(1980)レビュー
Black Sabbathの『Heaven and Hell』は、1980年発表の9作目にあたるスタジオ・アルバムで、オリジナル盤はUKのVertigoから出た。バンド名の印象を決定づけた初期の重さを引き継ぎながら、ここではボーカルがオジー・オズボーンからロニー・ジェイムス・ディオへ交代し、作品の輪郭が大きく組み替えられている。Black Sabbathの歴史の中でも、この1枚は転換点として扱われることが多い。1970年代の終わりに不安定さを抱えたバンドが、編成を立て直して再び前へ出た時期の記録でもある。
ロニー・ジェイムス・ディオ加入による変化
このアルバムでまず目立つのは、ディオの声が持ち込む明瞭さと推進力。オジー期の、鈍く沈むような歌唱と比べると、旋律の輪郭がはっきりしていて、曲の構造そのものが見えやすくなる。トニー・アイオミのギターは依然として重いが、リフの切れ味とフレーズの運びに余裕がある。加えて、ゲイリー・バードのような外部ミュージシャンではなく、バンドの中心であるアイオミとディオの組み合わせが、そのまま作品の核になっている点も大きい。
制作は1979年から1980年にかけて行われ、マイアミのクライテリア・スタジオとパリのスタジオ・フェルベールで録音された。プロデューサーはマーティン・バーチ。Black Sabbathにとって、1971年の『Master of Reality』以来、アイオミ以外の外部プロデューサーを迎えた作品でもある。音像は整理されていて、各楽器の分離がよい。初期Sabbathの湿った空気感よりも、輪郭の立ったハードロック寄りの鳴りが前に出る。
収録曲と代表曲
タイトル曲「Heaven and Hell」は本作を代表する1曲。冒頭の歌詞「The world is full of Kings and Queens...」で知られ、ディオ時代のBlack Sabbathを象徴する楽曲として定着している。リフは重いままなのに、歌メロが上を抜けていく構成で、Sabbathの別の顔を示した曲でもある。中盤の展開には、ハードロックの枠内での組み立ての巧さがある。
「Neon Knights」も印象的だ。疾走感のあるリズム、鋭く前へ出るギター、ディオの高い声が、そのままアルバムの勢いにつながっている。オジー期の代表曲群とは空気が違うが、バンドの重心が落ちたまま速さを持つ、という点ではBlack Sabbathらしさが残る。「Children of the Sea」や「Lady Evil」なども含め、全体としては長く引きずる暗さだけで押すのではなく、曲ごとの展開で聴かせる作り。
当時の位置づけ
本作は、オジー脱退後の混乱を経たのちに出た再出発のアルバムとして重要だ。1979年にオズボーンがバンドを離れた後、ビル・ワードの私生活の問題、ギーザー・バトラーの去就不安も重なり、バンド内は安定した状態ではなかった。その状況で、ディオの加入が単なる代役ではなく、Black Sabbathの次の章を作る方向に働いた。全英9位、全米28位を記録し、1982年にUKゴールド、1986年にUSプラチナを獲得している。
同時代の文脈で見ると、『Heaven and Hell』は70年代型のドロッとしたヘヴィさから、80年代型の明快なメタルへ移る接点に置かれている。RainbowやDioの流れを思わせる叙情性と、Black Sabbath本来のリフ主導の重さが同居していて、その後の正統派ヘヴィメタルに与えた影響も大きい。ディオ期Sabbathの出発点としてだけでなく、バンドが編成変更を経ても機能することを示した作品としても見ておきたい。
UK Vertigo盤について
UKオリジナルのVertigo盤は、1980年当時のPhonogram系リリースとして出たもの。ラベルには「Essex Music/Muggins Music」クレジットが入る初回仕様が知られている。Vertigoは70年代プログレやハードロックの名盤を多く抱えたレーベルで、Black Sabbathのような重量級バンドとの相性も強かった。オリジナル盤の時代感をそのまま持った1枚として、作品の意味がよりはっきり見える盤面だ。
『Heaven and Hell』は、Black Sabbathの歴史の中で、単なるボーカル交代作では終わっていない。バンドの重さを残したまま、歌と構成の見通しを上げた作品。オジー期の延長ではなく、ディオ加入によって別の設計図が持ち込まれたアルバムとして記憶されている。
トラックリスト
- A1 Neon Knights 3:50
- A2 Children Of The Sea 5:30
- A3 Lady Evil 4:30
- A4 Heaven And Hell 7:00
- B1 Wishing Well 4:05
- B2 Die Young 4:33
- B3 Walk Away 4:21
- B4 Lonely Is The Word 5:52