Bobbie Gentry - Ode To Billie Joe (1967)
Bobbie Gentry『Ode To Billie Joe』(1967)
Bobbie Gentryのデビュー作『Ode To Billie Joe』は、1967年のアメリカン・ポップスとカントリーの境界線をそのまま作品にしたような一枚だ。シンガー・ソングライターとしての感覚、南部の生活感、ソウル寄りのリズム感が同居していて、当時のヒット作の中でもかなり個性がはっきりしている。タイトル曲の大成功で知られるアルバムだが、全体を通して聴くと、単なるヒット・シングルの付属物ではなく、曲ごとの視点や語り口がよく整った作品としてまとまっている。
デビュー盤としての位置づけ
Bobbie Gentryはミシシッピ州生まれのシンガー・ソングライターで、このアルバムが実質的な登場作になる。もともとは他の歌手に提供する曲を書く側を目指していたが、「Ode To Billie Joe」のデモを自ら歌ったことが契機になり、歌い手として契約につながった経緯がある。そうした背景を踏まえると、この作品には「作曲家の視点で組まれた歌集」としての輪郭が見える。歌の内容だけでなく、曲順や物語の運びも含めて、かなり意識的に作られている印象が強い。
録音は1967年2月から7月末にかけて、カリフォルニア州グレンデールのWhitney Recording StudioとハリウッドのCapitol Studiosで行われた。プロデュースはKelly Gordon。演奏にはEarl Palmerのドラム、James Burtonのギターなど、当時の西海岸スタジオ・シーンを支えたプレイヤーが参加している。表題曲にはJimmie Haskellによるストリングスが後から重ねられていて、素朴な語りの曲に、かなり計算された厚みを与えている。
タイトル曲の存在感
このアルバムを語るうえで、「Ode To Billie Joe」は外せない。Billboard Hot 100で4週間1位を記録し、アルバム全体もBillboard 200とカントリー・アルバム・チャートの両方で1位に達した。物語性のある歌詞、淡々とした語り口、身近な出来事の中にある説明しきれない感情、その組み合わせが当時のポップ・チャートで大きく響いた形だ。
この曲の強さは、派手なサビや大きな音の展開よりも、情景の置き方にある。歌い方も含めて、感情を前に出しすぎずに進むので、聴き手は自然に歌詞の空白を追うことになる。ヒット曲でありながら、物語の余韻が残るタイプの楽曲だ。
収録曲とオリジナル盤の細部
収録曲には、契約獲得のきっかけになったとされる「Mississippi Delta」や、のちに知られる「Niki Hoeky」などが入っている。オリジナル盤では、ジャケット表記とレーベル表記で曲順や曲名に違いがある点もこの作品らしい細部だ。たとえば「Papa, Won't You Take Me To Town With You」はレーベルでは「Papa, Woncha Let Me Go To Town With You」、「An Angel Died」は「I Saw An Angel Die」と表記されている。こうした違いは、当時のレコード制作や表記の揺れをそのまま残していて、初期プレスの資料性を高めている。
また、この盤のA5「Niki Hoeky」では、パット・ベガスのみがソングライターとしてクレジットされている。アルバム全体としては、Beechwood Music Corp./Larry Shayne Music Inc.出版の曲が並び、カントリー、ソウル、ポップの接点を行き来する構成になっている。
音の印象
実際に聴くと、まずボビー・ジェントリーの声の置き方が目立つ。感情を大きく揺らす歌い方ではなく、言葉を前に出す歌唱で、曲の輪郭をくっきりさせている。そこにギター、ピアノ、ストリングスが加わると、南部の土の匂いが残る素材が、ラジオ向けの整った音像へと変わる。カントリーの要素がありつつ、リズムやコーラスの処理にはソウル寄りの感触もあるため、当時のNashville一辺倒のカントリー作品とは少し違う手触りになる。
Side 1は特に、日常の風景や人物像を切り取る曲が並び、Side 2でタイトル曲を軸に物語性が前に出る流れが見える。アルバムとして聴くと、1曲の大ヒットだけでは説明しきれない、作家性のあるデビュー盤として立ち上がってくる。
同時代の文脈
1967年は、カントリーからポップへ抜ける動きがいくつも見られた時期だが、Bobbie Gentryのこの作品は、その中でもかなり独自の立ち位置にある。女性シンガー・ソングライターが自作曲で大衆的成功を収める流れの先駆けとしても重要で、のちのJoni MitchellやCarole Kingの台頭を考えると、その前段階にある作品として見ることができる。カントリーの語法を使いながら、都市のポップ市場で通用する形に仕上げた点も大きい。
Bobbie Gentry自身は1970年代後半に表舞台から退くが、このデビュー盤はその後も長く参照されてきた。代表曲の強さ、アルバムとしての統一感、そして南部の空気をポップの形式に落とし込んだ手つき。『Ode To Billie Joe』は、1967年という年の中でも、かなりはっきりした輪郭を持つ作品だ。
トラックリスト
- A1 Mississippi Delta 3:05
- A2 I Saw An Angel Die 2:56
- A3 Chickasaw County Child 2:45
- A4 Sunday Best 2:50
- A5 Niki Hoeky 2:45
- B1 Papa, Woncha Let Me Go To Town With You 2:30
- B2 Bugs 2:05
- B3 Hurry, Tuesday Child 4:52
- B4 Lazy Willie 2:36
- B5 Ode To Billie Joe 4:15