Cabaret Voltaire - The Voice Of America (1980)
Cabaret Voltaire『The Voice Of America』について
Cabaret Voltaireの『The Voice Of America』は、1980年に発表された初期代表作のひとつで、シェフィールド発の実験性とインダストリアルの緊張感を、よりはっきりしたリズムの上に置いた作品だ。もともとCabaret Voltaireは、パンク以前のアート活動やテープ実験、ノイズ処理を土台に動いていたグループで、この時期にはStephen Mallinder、Richard H. Kirk、Chris Watsonの3人を中心に、音響の切り貼りと反復を前面に押し出していた。本作は、その流れの中でも、音の断片だけでなくビートの存在感が強く出たアルバムとして知られている。
今回の日本盤は1981年リリースで、オリジナルの1980年盤に続くかたちの登場となる。付属物としてインサートとポスターが添えられており、当時の国内盤らしい資料性もある。Rough Tradeの初期タイトルらしく、単なる輸入盤の置き換えではなく、シーンの空気をそのまま持ち込んだような一枚だ。
シェフィールド産の冷たい推進力
Cabaret Voltaireは、1973年にシェフィールドで結成された。工業都市という土地柄はよく語られるが、この作品でも金属的な響きや乾いた打ち込み、切断された声の処理が前に出る。録音は1980年3月から4月にかけて、シェフィールドのWestern Worksで行われた。そこで集められた放送音声やテレビ由来の断片、政治的な空気感が、曲の中にそのまま埋め込まれている。
AllMusicでも指摘されているように、『Mix-Up』よりも足場が固まり、ドラムマシンや実ドラムの導入で、ざらついたドローンや断片的な音響が引き締まっている。実際に聴くと、音の密度は高いのに、各要素の輪郭が比較的見えやすい。ノイズがただ広がるのではなく、リズムの反復に沿って前へ進む感覚がある。ここが本作の大きな特徴だ。
同時代の緊張が入り込んだ内容
タイトル曲を含め、収録曲には当時の国際情勢を思わせる語感が散りばめられている。イラン人質事件、ホメイニ革命、アフガニスタン侵攻、冷戦といった時代の空気が背景にあり、直接的なメッセージというより、メディアの断片を素材として並べた印象が強い。政治的スローガンを前に出すというより、テレビや放送の音を通して不穏さを構築している点がCabaret Voltaireらしい。
とくに「News From Nowhere」や「Premonition」では、低音の圧と抑え込まれたボーカル、機械的な反復が重なり、緊張が途切れない。メロディを追う作品ではないが、音の配置を追っていくと、どこで低域を落とし、どこで声を引っ込めるかがかなり計算されているのがわかる。耳に残るのはフックというより、断片の組み合わせそのものだ。
Cabaret Voltaireの中での位置
この作品は、Cabaret Voltaireが単なる前衛ノイズ集団ではなく、ダンスの身体感覚を取り込みながら独自の電子音楽へ進んでいく途中にある。のちの『Red Mecca』へつながる流れも見え、さらに1983年以降の比較的商業的な方向へ向かう前の、実験性と推進力が同居した時期を示している。後年のハウス寄り、ダブ寄りの展開を知っていると、このアルバムの硬さがいっそうはっきりする。
同時代の文脈では、Throbbing GristleやClock DVA、This Heatのような実験音楽とも近い緊張感がある一方で、Cabaret Voltaireは反復の使い方がより鋭い。音を壊すだけでなく、壊れた断片をビートに接続していくやり方が、後のインダストリアルやエレクトロニック・ダンスの周辺にも影響を残した。
日本盤としての存在感
1981年の日本盤は、オリジナル盤から少し時間を置いての登場だが、作品の内容自体は1980年の空気をそのまま抱えている。Rough Trade初期のカタログらしい、アート寄りでありながら現場感のある一枚で、インサートやポスターも含めて当時の資料性が高い。盤として手に取ると、音だけでなく、80年代初頭の独立系レーベルの熱量まで一緒に残っている。
商業的な大ヒット作ではないが、Cabaret Voltaireの初期を語るうえで外せないアルバムだ。ノイズ、反復、放送音声、冷えたビート。その組み合わせが、この時代の不安と実験精神をよく残している。
トラックリスト
- A1 The Voice Of America / Damage Is Done
- A2 Partially Submerged
- A3 Kneel The Boss
- A4 Premonition
- B1 This Is Entertainment
- B2 If The Shadows Could March? /1974
- B3 Stay Out Of It
- B4 Obsession
- B5 News From Nowhere
- B6 Messages Received