Herbie Hancock - Sextant (1973)
Herbie Hancock 1973

Herbie Hancock - Sextant (1973)

Electronic Jazz Experimental Fusion Jazz-Funk

Herbie Hancock『Sextant』(1973)について

ハービー・ハンコックの『Sextant』は、1973年にUSコロンビアから発表された作品で、同年のハンコック作品の中でもかなり特殊な位置にあるアルバムだ。前作までのアコースティックなコンボ・ジャズからさらに踏み込み、電子楽器と即興演奏を強く結びつけた内容になっている。ジャズの枠組みを保ちながら、シンセサイザーやエレクトリック・ピアノを前面に出した時期の到達点として聴かれている。

ムワンディシ期の終着点

この作品は、いわゆるムワンディシ・セクステット名義の流れの最後の作品として知られる。編成は、Bennie Maupin、Eddie Henderson、Julian Priester、Buster Williams、Billy Hartという顔ぶれに、Patrick GleesonがARP 2600とARP Pro Soloistで加わる形。ハンコック自身もローズ・ピアノ、クラビネット、ムーグ・シンセサイザーなどを操り、アコースティック楽器と電子音が同じ空間でぶつかり合う構成になっている。

録音はサンフランシスコのWally Heider StudiosとDifferent Fur Trading Co.で行われた。西海岸のスタジオで作られた1970年代初期のジャズらしく、音の輪郭がはっきりしていて、各奏者の動きが埋もれにくい。電子楽器を入れながらも、演奏の手触りはかなり生々しい。

「Rain Dance」を中心にした実験性

冒頭の「Rain Dance」は、このアルバムを語るうえで外せない曲だ。Gleesonが操るARPシーケンサーの反復パターンを土台にして展開していく作りで、当時のジャズとしてはかなり先を行くアプローチだった。リズムが前へ進むというより、回路のように循環しながら少しずつ変化していく感覚が強い。ここでのハンコックは、ソロを弾くというより、音の層を組み立てる側に回っている。

実際に聴くと、メロディーの分かりやすさよりも、音色の切り替えやアンサンブルの密度が印象に残る。ファンクの拍感を持ちながら、ロック的な直線性にも寄り切らず、フリー寄りの揺れもある。後の『Head Hunters』のような明快なグルーヴとは違い、こちらは構造そのものを聴かせるタイプの作品。

1973年のコロンビア盤としての意味

このUS盤はコロンビアのC 32212で、1973年のオリジナル・リリース。レーベル表記やバックカバーのクレジットからも、当時のCBS/Columbiaの制作物としてまとまっている。盤ごとのバリエーションとしては、赤ラベルの仕様で、Customatrixのスタンプや、Columbia Records Pressing PlantのSanta MariaとTerre Hauteに関わるランアウト表記が確認される。コロンビアの1970年代前半らしいプレス事情が反映された一枚でもある。

なお、この時期のコロンビアでは、価格コードとしてCやPCが使われていたが、この盤にはKCプレフィックスは付いていない。1973年のUSコロンビア盤らしい体裁の中で、『Sextant』はかなり攻めた内容を収めている。

ハービー・ハンコックの流れの中で

ハンコックは1960年代にマイルス・デイヴィス・クインテットで広く知られ、その後は自身のバンドでジャズ・ファンクやフュージョンへ踏み込んでいく。この流れの中で『Sextant』は、後年の大ヒット作『Head Hunters』の直前に置かれる。商業的には後発の作品ほど大きくないが、電子音と即興演奏の接続という点では重要な位置を占める。

同時代の文脈で見ると、ジョー・ザヴィヌルやウェザー・リポート周辺の動き、あるいはマイルス以後の電化ジャズの広がりと近い空気を持つ。ただし『Sextant』は、ファンクの快感を前面に出すより、音の配置や機械的な反復を押し出している点で独特だ。ジャズ・ファンク、フュージョン、実験音楽の境目にある作品として扱われるのも自然な流れ。

作品の印象

全体を通して、演奏は密度が高く、音数も多いが、単純な盛り上がりへは流れない。ベースとドラムの推進力に、電子音のパターンが絡み、管楽器がその上で鋭く動く。聴きどころは、派手なフックというより、各曲の中で音の役割が入れ替わっていくところにある。ジャズの即興性と、シンセサイザー以後の感覚が同じフレームに収まっている点が、このアルバムの面白さだ。

後年になって再評価が進んだのも納得できる内容で、ハービー・ハンコックの70年代前半を追ううえでは欠かせない一枚。『Sextant』は、次の大きな転換点へ向かう直前に置かれた、濃密な実験記録として残っている。

トラックリスト

  1. A1 Rain Dance 9:16
  2. A2 Hidden Shadows 10:13
  3. B Hornets 19:36

動画プレイリスト

公開: 2026年8月
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