Claude Young - Soft Thru (1997)
Claude Young『Soft Thru』(1997)
デトロイト出身のテクノDJ/プロデューサー、Claude Youngが1997年にベルギーのElypsiaから発表した初のフル・アルバムが『Soft Thru』だ。90年代前半からDJとして活動を始め、シングルやリミックスで評価を積み上げてきた彼にとって、本作はクラブ現場の機能性だけでなく、アルバムというまとまった形式で自分の音を示した作品として位置づけられる。レーベルはブリュッセル拠点のElypsia Recordsで、革新性のある電子音楽を送り出していたレーベルの流れの中にある一枚。
デトロイト・テクノの文脈にあるアルバム
Claude Youngは、デトロイトの女性プロデューサー、ケリー・ハンド主宰のAcaciaから「You Give Me」でデビューした後、Dow、Utensil、Seventh City、Fracture、Superstition、Deta、Axisなど複数のレーベルからEPを発表してきた人物だ。1995年にはInner City、Astral Pilot、Innerzone Orchestra、Joey Beltram、Slamといったアーティストのリミックスを手がけ、翌1996年には「DJ-Kicks」シリーズでミックスを披露している。デトロイト出身のDJとして、Jeff Mills以後の世代を代表する存在として語られてきた流れがここにつながる。
『Soft Thru』は、その積み上げの先に出てきた初のアルバムという意味合いが強い。クラブ向けの推進力を保ちながら、アルバム全体ではミニマルな展開と旋律的な要素が整理されていて、単発の12インチとは違う聴かせ方になっている。Techno、Ambient、Electroの要素が並ぶが、どれか一つに寄せるというより、音の配置や間の取り方でまとまりを作っている印象が残る。
録音と献辞、ベルギー盤としての存在感
クレジットを見ると、録音はDetroitのLaptop Technology StudioとLondonのNasus Studioで行われている。制作の場がデトロイトとロンドンにまたがっている点も、この時期のテクノが都市ごとのローカル性だけで閉じていないことを示している。ジャケットにはLonnie H. LangとGerrold L. Simsへの献辞が記されており、作品の外側に個人的な記憶が置かれているのも特徴的だ。
盤はMade in Belgium。Elypsiaのようなヨーロッパのレーベルから、デトロイトの作家性を持つアルバムが出る構図は、90年代後半のテクノでよく見られた流れでもある。アメリカの都市で育った感覚を、ヨーロッパのレーベルが流通させる形だ。Future Sound Productions名義のクレジットも含め、制作と権利表記は当時のインディペンデントな電子音楽作品らしい実務的な佇まいになっている。
音の輪郭
実際に聴くと、派手なフックで押すタイプではなく、細かい打ち込みの反復と低音の推進で進む場面が多い。リズムは硬質だが、音の隙間に残る空気感がきつすぎない。Ambient寄りのパートが入っても、単なる休符としてではなく、次のビートを立ち上げるための準備のように機能している。Electroの乾いた質感と、テクノの直進性、そこに少しだけメロディの線を通す構成が、この時代のデトロイト周辺の作品らしい。
アルバム全体を通して、曲ごとの主張を前に出すより、流れの中で印象を残す作りが目につく。DJとしての経験が反映された組み立てで、単体のトラックを並べただけの作品とは少し違う。フロア向けの圧と、家庭で通して聴いたときの連続性、その両方を意識した作りに見える。
同時代との接点
90年代後半のデトロイト・テクノは、Jeff Mills、Carl Craig、Derrick Mayの系譜だけでなく、より細かなレーベル網の中で多様化していた時期でもある。Claude Youngはその中で、DJ/リミキサーとしての実績を背景に、より硬質で機能的な側面と、アルバムでの構成感を両立させた人物として見られてきた。後年にはオランダのDjax-Up-Beatsとも関係を深め、『Pattern Buffer』シリーズや2000年の『Patterns』へとつながっていくが、『Soft Thru』はその前段階で、彼の基本線をまとめた初期の到達点として読むことができる。
代表曲を一曲だけ抜き出して語るタイプの作品ではないが、アルバム全体がひとつの流れとして記憶に残る。90年代テクノの中でも、デトロイト産の芯のある打ち込みを、ベルギーのレーベルがきっちりアルバム化した例として、今見ても輪郭のはっきりした一枚だ。
トラックリスト
- A1 Quicksand 7:09
- A2 Distant Signal 4:14
- B1 Shift 5:05
- B2 Change Of Pace 4:13
- B3 Marching On 6:19
- C1 Days Of Old 4:00
- C2 Things Look Better Now 7:45
- D1 Float 4:27
- D2 Gates Of The Afterlife 8:26