The KLF - Chill Out (1990)
The KLF『Chill Out』レビュー
The KLFは、ジミー・コーティとビル・ドラモンドによる英国のユニットで、1980年代後半から1990年代初頭にかけて、ハウス、レイヴ、ポップ、そしてアートの領域をまたぎながら独特の活動を続けた。『Chill Out』は1990年2月にKLF Communicationsから発表された3作目のアルバムで、彼らの作品群の中でもかなり位置の見えやすい一枚だ。派手なシングルで知られる一方で、この作品はアンビエント・ハウスの初期例として語られることが多く、The KLFの別の顔を示すアルバムになっている。
本作は、テキサスからルイジアナへ向かう深夜の架空のロード・トリップを描いた連続作品として構成されている。実際の旅の記録ではなく、ラジオ放送、環境音、列車や飛行機の音、既存曲の断片をつないで、夜の移動そのものを組み立てたような作り。44分ほどの一続きの録音として制作されたとされ、曲の切れ目よりも流れが前に出る。タイトル通りの「チル」という語感だけで片づけるには、音の断片が多く、情報量の多い作品でもある。
サンプリングで組み立てた夜の風景
『Chill Out』を語るうえで外せないのが、サンプリングの使い方だ。エルヴィス・プレスリー「In The Ghetto」、フリートウッド・マック「Albatross」「Oh Well」、エイカー・ビルク「Stranger On The Shore」、ヴァン・ヘイレン「Eruption」、808 Stateの「Pacific」などが断片的に差し込まれ、さらにアメリカ、英国、ロシアのラジオ放送、BBCの時報、トミー・ヴァンスの番組ジングルまで入る。こうした素材が、単なる引用ではなく、夜のハイウェイに流れる断続的な受信音のように機能している。
特に印象に残るのは、音が前に出る場面よりも、何かが遠くで鳴っている時間の長さだ。列車の通過音、空間の広がり、ラジオのノイズが重なり、曲というより移動の途中にある感覚が続く。耳を引くメロディを追うというより、断片同士の距離感を聴くアルバム。アンビエント作品としては冷たすぎず、ハウス作品としてはビートがほぼ表に出ない。その中間に置かれた性格がはっきりしている。
The KLFの中での位置
The KLFは、1988年の「What Time Is Love?」や「3 AM Eternal」のような代表曲でレイヴ期の文脈に強く結びついているが、『Chill Out』はその直線上にあるだけの作品ではない。むしろ、彼らが持っていたサンプリング感覚、世界観の作り込み、そしてポップと実験の往復を、そのままアルバム単位に落とし込んだものとして見やすい。のちに彼らが『The White Room』や『The Manual』へ進む流れを思うと、この時点ですでに制作思想はかなり固まっていた。
また、The KLFはのちに過激なパフォーマンスやK Foundationの活動でも知られるが、『Chill Out』にはそうした騒ぎとは別の、音だけで場面をつくる集中がある。1992年に活動停止へ向かう前の時期にあって、彼らのカタログの中でも特に静かな重みを持つ一枚だ。
オリジナル盤と後年の動き
この作品は1990年のUK盤としてKLF Communicationsから出ており、ラベル表記はJAMSLP5。後年にはブートレグも出回ったが、2021年にはサンプルを差し替えた再構成版『Come Down Dawn』がストリーミング配信された。そちらでは、元盤の印象を強く決めていたエルヴィスやフリートウッド・マックなどの要素が外され、別のかたちで再提示されている。オリジナル盤は、当時のサンプリング文化と著作権の緊張関係を含んだまま残っている点も重要だ。
同時代とのつながり
1990年前後の英国では、レイヴとアンビエントが近い場所にあった。808 Stateのようなクラブ寄りの電子音楽が進む一方で、より長い時間の流れを扱う作品も出てくる。『Chill Out』は、その中でもひときわコンセプトが明確で、のちのアンビエント・ハウスやコラージュ的な電子音楽に影響を与えた一枚として扱われている。派手なシングル群とは別の角度から、The KLFの名前を残した作品。夜の移動、ラジオの混線、既存曲の残響が、ひとつの長い場面としてまとまっている。
トラックリスト
- A1 Brownsville Turnaround On The Tex-Mex Border 1:47
- A2 Pulling Out Of Ricardo And The Dusk Is Falling Fast 1:29
- A3 Six Hours To Louisiana, Black Coffee Going Cold 3:01
- A4 Dream Time In Lake Jackson 2:35
- A5 Madrugada Eterna 7:40
- A6 Justified And Ancient Seems A Long Time Ago 1:08
- A7 Elvis On The Radio, Steel Guitar In My Soul 3:01
- B1 3AM Somewhere Out Of Beaumont 9:24
- B2 Witchita Lineman Was A Song I Once Heard 5:56
- B3 Trancentral Lost In My Mind 1:16
- B4 The Lights Of Baton Rouge Pass By 3:34
- B5 A Melody From A Past Life Keeps Pulling Me Back 1:41
- B6 Rock Radio Into The Nineties And Beyond 1:26
- B7 Alone Again With The Dawn Coming Up 0:16