Martha And The Muffins - This Is The Ice Age (1981)
Martha And The Muffins 1981

Martha And The Muffins - This Is The Ice Age (1981)

Electronic Rock Ambient New Wave Synth-pop

Martha And The Muffins『This Is The Ice Age』について

1981年にUKのDinDiscから出たMartha And The Muffinsの3作目が『This Is The Ice Age』。トロントのクイーン・ストリート・ウエスト周辺やオンタリオ・カレッジ・オブ・アートの空気を背景に育ったバンドが、ニューウェイヴの文脈の中でサウンドをさらに押し広げた一枚だ。前作までのポストパンク寄りの感触を残しつつ、ここでは電子音の処理や空間の使い方が前面に出ていて、バンドの輪郭がかなり変わっている。

録音は1981年5月から6月にかけてトロントのNimbus 9で基本トラックを進め、その後ハミルトンのGrant Avenue Studioで追加録音とミックスを行っている。制作には当時まだ若手だったダニエル・ラノワが関わっており、これが彼にとってロック作品のプロデューサーとしての実質的な出発点になった。のちにブライアン・イーノに見出され、U2やボブ・ディランなどへ仕事を広げていく前段階として見ると、この作品の位置はかなり重要だ。さらに、姉のジョセリン・ラノワもこの時期にベースとコーラスで参加している。

作品の手触り

このアルバムで目立つのは、デジタル・シンセサイザーの扱い方と、ディレイやリバーブを効かせた音像の整理ぶり。単に機械的な冷たさへ寄せるのではなく、環境音のような要素をところどころに差し込むことで、ニューウェイヴの中でも硬質になりすぎないまとまりを作っている。前作『Trance and Dance』がやや地味な印象に終わったあとだけに、この変化ははっきりしている。

実際に聴くと、音の隙間が多く、各パートがぎゅうぎゅうに詰め込まれていない。ドラム、ベース、シンセ、ギターがそれぞれ前に出る場面を持ちながら、全体では少し引いた位置から鳴っている感じがある。そこにMartha Johnsonのボーカルが乗ることで、感情を押し出しすぎないまま曲の温度が保たれている。派手さよりも、配置のうまさで聴かせるタイプのアルバムだ。

ニューウェイヴの中での立ち位置

同時代のニューウェイヴ勢と比べると、単純なダンス志向やギターバンド的な勢いだけではなく、音の処理そのものに意識が向いている点が特徴になる。トーキング・ヘッズを思わせると評されることがあるのも、この知的な構成感と、ファンクやアートポップを通過したような感触があるからだろう。ただし、引用や模倣の印象よりも、カナダのバンドとして独自の整え方をした作品として聴こえる。

この時期のMartha And The Muffinsは、1980年の「Echo Beach」で国際的なヒットを経験したあと、イギリスやヨーロッパ、北米で広く活動していた。そうした流れの中で出た本作は、単なる次のアルバムではなく、バンドがサウンド面で一段階進んだ記録として読める。のちにメンバーを絞ってM + M名義へ移る前の、拡張と整理が同時に進んでいた時期の到達点でもある。

代表曲とアルバムの印象

この作品を語るうえで、どうしても「Echo Beach」の存在は外せない。バンドの代表曲として広く知られたこのヒットのあとに出た作品だからだ。ただ、『This Is The Ice Age』はヒット曲頼みの内容ではなく、アルバム全体の質感で聴かせる構成になっている。曲ごとの役割がはっきりしていて、シングル向きの切れ味と、アルバム全体の流れが両立している印象がある。

また、1981年10月22日というリリース時期も含めて、80年代初頭のニューウェイヴがポストパンクの荒さから、よりスタジオ志向の作品へ移っていく流れの中に置ける。DinDiscというVirgin傘下のレーベルから出た点も、その時代のUKニューウェイヴらしい流通のかたちとして見えてくる。現在はレーベル自体は活動していないが、再発盤などでDinDiscのカタログ番号が残るのも、この時代の記録としてわかりやすい。

まとめ

『This Is The Ice Age』は、Martha And The Muffinsが初期のニューウェイヴ・バンドから、音の設計まで含めて考える存在へ移ったことを示すアルバム。ダニエル・ラノワの初期仕事としても、トロント発のバンドがUK市場で洗練を獲得した作品としても、位置づけははっきりしている。電子音、空間処理、アートポップの感覚が、1981年という年の空気の中でまとまっている一枚だ。

トラックリスト

  1. A1 Swimming 3:52
  2. A2 Women Around The World At Work 3:47
  3. A3 Casualties Of Glass 5:09
  4. A4 Boy Without Filters 4:58
  5. A5 Jets Seem Slower In London Skies 2:34
  6. B1 This Is The Ice Age 7:25
  7. B2 One Day In Paris 4:15
  8. B3 You Sold The Cottage 3:55
  9. B4 Three Hundred Years / Chemistry 7:00

動画プレイリスト

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