David Kilgour And The Heavy Eights - Bobbie's A Girl (2019)
David Kilgour And The Heavy Eights『Bobbie's A Girl』について
2019年にニュージーランドで登場したDavid Kilgour And The Heavy Eights名義の『Bobbie's A Girl』は、David Kilgourのソロ作やThe Clean周辺の作品を追ってきた人なら、まず音の重心の置き方で耳を引かれるアルバムだ。ギターを前に押し出す場面はあるものの、全体としては音数を絞り、曲の輪郭よりも余白や間の流れを重く見ている。ブラシを使ったドラム、控えめな歌、ヴィブラフォンの響きが入り、ロックの推進力よりも、部屋の空気が少しずつ動くような手触りが前に出る作品。
録音、ミックス、マスタリングは2015年から2018年にかけて行われた。メンバーがそれぞれ離れていたため、短いセッションを数か月おきに重ねて形にしていったという流れも、このアルバムの落ち着いた温度にそのままつながっている。まとまった時間で一気に作るというより、少しずつ積み上げた記録として聴こえる場面が多い。
静かな構成の中にある重み
この作品で目立つのは、派手なフックや分かりやすい高揚よりも、音の引き算だ。半分近くがインストゥルメンタルという紹介がされることもある通り、歌が前面に出る曲だけでなく、旋律の断片やコードの響きだけで進む曲が多い。ギターはいつものKilgourらしい感触を残しながらも、以前のような切れ味だけを狙っていない。音が鳴ったあとに残る空間まで含めて曲として扱っている印象が強い。
レビューでは、これまでの歯切れのよいギター・ポップ的な印象よりも、漂うような質感が強調されていた。実際に聴くと、リズムが強く押していくというより、各楽器が少し距離を保ちながら並んでいる感じがある。ヴィブラフォンの音色が入ることで、ロックのバンド演奏に別の陰影が差し込む場面もある。歌ものとしても成立しているが、歌詞を前に出して語り切るタイプではなく、声もまた編成の一部として置かれている。
喪失の気配と、沈み込みすぎない姿勢
背景には、親しい友人と母親を亡くしたことがあると伝えられている。そうした事情を踏まえると、アルバム全体にある静けさや内省の強さにも納得がいく。とはいえ、重さだけで押し切る作品ではない。暗い色合いを持ちながら、完全には沈まない。その距離感がこの作品の核にある。
タイトルの“Bobbie”は、レコーディング終盤に家へ来た野良猫に由来し、Bobbie Gentryから名付けたという話が紹介されている。こうしたエピソードも、作品の雰囲気とよく合う。大きなドラマを前面に出すより、身近な出来事や小さな偶然をそのまま残している感じだ。
David Kilgourの作品群の中で
David KilgourはThe Clean以来、ニュージーランドのインディー・ロックを語るうえで外せない存在だが、『Bobbie's A Girl』はその中でもかなり落ち着いた位置にある。The Cleanや、同じくダニーデン周辺のバンドにある軽やかなギターの感触は残しつつ、ここではメロディの輪郭を少しぼかし、空気感を優先している。ニュージーランドのオルタナティブ/インディーの文脈の中でも、派手な主張より録音の質感で聴かせるタイプの作品として置ける。
レーベルはMerge Records。アメリカのインディー・レーベルだが、この盤はニュージーランド盤としてviolet vinyl仕様で出ている。付属のフル・アルバム・ダウンロードカードも含め、2019年当時のパッケージとしてまとまっている。盤の存在感は、作品そのものの静かな内容に対して少し華やかだが、音楽の方はあくまで抑制的。
まとめ
『Bobbie's A Girl』は、David Kilgourのギターの輪郭を追うアルバムというより、音の間合い、演奏の温度、録音の置き方を確かめる作品だ。ロックとしての筋は保ちながら、フォーク寄りの静けさや、サイケデリックな揺らぎが控えめに差し込まれる。大きく展開する曲より、短いフレーズや残響が印象に残る構成。2019年のDavid Kilgour And The Heavy Eightsを語るなら、この内省的な空気がまず中心に来る。
トラックリスト
- A1 Entrance
- A2 Smoke You Right Out Of Here
- A3 Crawler
- A4 Threads
- A5 Coming In From Nowhere Now
- B1 Spotlight
- B2 Swan Loop
- B3 If You Were Here And I Was There
- B4 Looks Like I'm Running Out
- B5 Ngapara