Depeche Mode - Speak & Spell (1981)
Depeche Mode 1981

Depeche Mode - Speak & Spell (1981)

Electronic Synth-pop

Depeche Mode『Speak & Spell』について

1981年発表の『Speak & Spell』は、Depeche Modeのデビュー・アルバムであり、バンド初期の輪郭をそのまま記録した作品だ。ロンドンのMuteからリリースされたUK盤で、レーベル番号はSTUMM 5。シンセサイザーだけで組み立てられた楽曲が並び、のちに世界的な存在へ育っていく前の、かなり端的な「出発点」が詰まっている。

当時のDepeche Modeは、デイヴ・ガーン、マーティン・ゴア、アンディ・フレッチャー、そして主要ソングライターだったヴィンス・クラークという4人編成。バンドは1980年にエセックス州バジルドンで結成され、ニュー・ロマンティック周辺の空気と接しながらも、より機能的でチャート志向のエレクトロ・ポップを作っていた。Mute創設者ダニエル・ミラーがライブを見て彼らを見出した、という経緯もこの時期らしいエピソードだ。ミラーはBlackwing StudiosにARP 2600を持ち込み、共同プロデュースを担いながらも、編曲の中心はバンド側に委ねたとされる。

代表曲「Just Can’t Get Enough」とアルバムの核

このアルバムを語るうえで外せないのが「Just Can’t Get Enough」だ。1981年9月の先行シングルで、UKシングルチャート最高8位を記録した。バンドにとって当時の最高位であり、初期Depeche Modeの名前を広く知らしめた曲でもある。ヴィンス・クラークは後年、Spandau Balletの「To Cut a Long Story Short」のリズムから着想を得たと語っている。実際に聴くと、ベースライン、短いシーケンス、軽快なコードワークが前に出ていて、後年の重厚なDepeche Mode像とはかなり違う。だが、メロディの組み立て方と反復の使い方には、すでに彼ららしさが見える。

収録曲は、シンセの音色を重ねるというより、リード、ベース、リズムの役割をはっきり分けて進む構成が目立つ。8トラック録音で、ほぼライブに近い感触を持つ作り、という資料もある。音の数は多くないが、そのぶん各パートの輪郭がはっきりしている。『Speak & Spell』を聴くと、のちのDepeche Modeにあるダークさや圧の強さよりも、まずは整理されたポップソングとしての設計が前に出る。

ヴィンス・クラーク脱退という転機

この作品の重要な点は、アルバム発表直後にヴィンス・クラークが脱退したことだろう。本人は、自分が最も作業を担っていたので一人でもやれると思った、と回想している。アンディ・フレッチャーも、クラークがスタジオを強くコントロールしたがり、他のメンバーが窮屈さを感じていたこと、有名になることやツアーを好まなかったことを証言している。結果として、Depeche Modeは次作『A Broken Frame』からマーティン・ゴアが主導権を握り、以後のバンド像が大きく変わっていく。

クラークは脱退後、Yazoo、さらにErasureへとつながる活動を展開する。『Speak & Spell』は、その後の彼自身のポップ・センスにも接続する出発点として見える部分がある。

同時代の中での位置

1981年の英国エレクトロ・ポップには、Soft CellやThe Human Leagueなど、シンセを前面に出したバンドが並んでいた。Depeche Modeの初期作もその文脈に置かれるが、のちに彼らがメジャーな存在へ変化していくのに対して、このアルバムはより軽やかで、構造もシンプルだ。AllMusicが「保守的で機能的なポップ作品であると同時に画期的な作品」と評した一方、Robert Christgauは厳しい評価を与えたという記録もあり、当時から受け止め方は割れていたようだ。

ただ、現在の耳で聴くと、ここには後年のDepeche Modeに連なる要素がすでにある。シンセを中心に曲を組み立てる明快さ、反復の使い方、メロディの通りやすさ。『Speak & Spell』は完成された大作というより、バンドが自分たちの方法を見つけていく瞬間をそのまま残したアルバムとして読める。

UKオリジナル盤の印象

今回のUKオリジナル盤は1981年リリース。セミ・グロッシーのジャケットで、内袋は丸みのある汎用スリーブ。コピーによっては「MADE IN ENGLAND R.S. 9-81」「10-81」「11-81」といった印字が入るものもある。盤面のランアウトはエッチング。初期プレスならではの仕様が並び、デビュー作らしい時代感もはっきり残る。

『Speak & Spell』は、Depeche Modeがまだ“巨大なバンド”になる前の記録であり、同時にその後の長い歴史の起点でもある。軽快なポップとして聴ける一方で、ここから何が失われ、何が残ったのかを追う楽しさもあるアルバムだ。

トラックリスト

  1. A1 New Life
  2. A2 I Sometimes Wish I Was Dead
  3. A3 Puppets
  4. A4 Boys Say Go!
  5. A5 Nodisco
  6. A6 What's Your Name?
  7. B1 Photographic
  8. B2 Tora! Tora! Tora!
  9. B3 Big Muff
  10. B4 Any Second Now (Voices)
  11. B5 Just Can't Get Enough

動画プレイリスト

Share
戻る

あわせて聴きたい "Synth-pop"

toast