Madonna - Ray Of Light (1998)
Madonna『Ray Of Light』(1998)レビュー
マドンナの7作目のスタジオ・アルバム『Ray Of Light』は、1998年に登場した作品で、彼女のキャリアの中でも大きな転換点として扱われることが多い。初期のダンス・ポップの印象が強い人でも、このアルバムに触れると、サウンドの作り方も歌い方も、かなり違う方向へ進んでいることがわかる。電子音楽、ポップス、ダウンテンポ、シンセ・ポップの要素をまとめながら、個人的な内面や時間の流れを扱う内容になっている。
制作の背景には、母親になったことや、ヨガ、カバラへの傾倒があるとされている。そうした変化は、歌詞の主題だけでなく、曲全体の呼吸の仕方にも反映されている。派手なヒット性を前面に出す場面もあるが、全体としては落ち着いたテンポの中に細かな音の動きが置かれ、耳を引くのはビートよりもその配置のほう。1990年代後半のポップ作品としては、かなり制作意識の高いアルバム。
ウィリアム・オービットとの共同作業
このアルバムの核にあるのは、プロデューサーのウィリアム・オービットとの共同作業。オービットが送ったデモにマドンナがメロディや歌詞を重ねていく形で楽曲が作られており、当時の大物ポップスター作品としてはかなり作家主導の色が濃い。ロサンゼルスの目立たないスタジオで数か月かけて制作されたという点も含めて、外向きの華やかさより、曲そのものの設計に重心がある。
サウンド面では、エレクトロニカ、トリップホップ、アンビエント、中東的な響きが混ざり合っている。特に当時のメインストリーム・ポップの中では、こうした質感はまだ珍しく、アンダーグラウンド寄りだった電子音楽の要素を大きく前に出した点が重要だった。後続のポップ作家たちが、ビートの細部や音の空気感を重視する流れに向かううえで、この作品の存在感はかなり大きい。
収録曲と代表曲
先行シングルの「Frozen」は、重たい拍と広がりのある音像が印象的で、このアルバムの方向性を早い段階で示した曲。続くタイトル曲「Ray of Light」は、推進力のあるビートと明るいメロディが前に出る代表曲で、ダンスフロア向けの感触を持ちながらも、ただの快楽主義で終わらない構成になっている。第41回グラミー賞で複数部門を受賞したことも、この曲の評価を裏づけている。
そのほか、「Drowned World (Substitute for Love)」や「The Power of Good-Bye」、「Nothing Really Matters」など、アルバム後半に進むほど内省の比重が増していく。「Little Star」は特別な位置づけの楽曲として知られ、作品全体の私的な側面を補強している。ヒット曲を並べるだけの作品ではなく、曲順を通して感情の移り方を追うタイプのアルバム。
作品の位置づけ
『Ray Of Light』は、マドンナのディスコグラフィーの中でも、単なる人気作以上の意味を持つ。80年代から90年代前半にかけて築いてきたポップ・アイコンとしてのイメージを保ちながら、90年代後半の電子音楽の文脈に自らを接続し直した作品だからだ。商業的にも成功し、批評面でも高く評価され、彼女の後期キャリアを語るうえで欠かせない一枚になっている。
同時代のポップ作品と比べると、音の作り込みがかなり細かい。ダンス・ミュージックの要素を取り入れつつ、単純にクラブ向けへ寄せるのではなく、歌詞や構成に内面性を残している点が特徴的。マドンナが単なるヒットメーカーではなく、時代ごとに表現の軸を更新するアーティストとして扱われる理由も、このアルバムでよく見える。
アナログ盤としての情報
このヨーロッパ盤は1998年リリースで、レーベルはMaverick。内袋にはカラー印刷の歌詞、クレジット、写真が収録され、ジャケットはマット仕上げでラミネートなし。盤面の表記には「To Have And Not To Have」と記された誤植もある。オリジナル期の仕様としては、作品の空気感を保ったまま、パッケージ面でも当時らしい質感が出ている。
『Ray Of Light』は、マドンナの代表作のひとつとして、ヒット曲の記録だけでなく、90年代ポップの更新点としても見られている。電子音楽の語法をポップの中心に持ち込み、しかも個人史の重さをそのまま作品に残した点が、このアルバムの核になっている。
トラックリスト
- A1 Drowned World / Substitute For Love 5:09
- A2 Swim 5:00
- A3 Ray Of Light 5:21
- B1 Candy Perfume Girl 4:34
- B2 Skin 6:22
- B3 Nothing Really Matters 4:27
- C1 Sky Fits Heaven 4:48
- C2 Shanti / Ashtangi 4:29
- C3 Frozen 6:12
- C4 The Power Of Good-Bye 4:10
- D1 To Have And Not To Hold 5:23
- D2 Little Star 5:18
- D3 Mer Girl 5:32