New Order - Power, Corruption & Lies (1983)
New Order『Power, Corruption & Lies』(1983)
1980年にマンチェスターで結成されたNew Orderの2作目。前身のJoy Divisionが残した暗い輪郭を引きずりながらも、その先へ大きく舵を切ったアルバムで、1983年5月2日にUKのFactoryから発売された。レーベル番号はFACT 75。New Orderの初期を語るうえで外せない一枚であり、バンドがシンセサイザーやドラムマシンを本格的に取り込み、バンドサウンドの重心を組み替えた時期の記録でもある。
Joy Divisionの延長線から、別の形へ
制作はバンド自身の主導で進められ、ロンドンのBritannia Row Studiosで1982年10月から11月にかけて録音された。前作『Movement』を手がけたマーティン・ハネットとは距離を置き、ここではBernard Sumner、Stephen Morris、Gillian Gilbertがシンセサイザーやプログラミングを分担している。Oberheim DMX、E-mu Emulator、LinnDrumといった機材が前面に出たことで、ギター中心のポストパンクとは違う、機械的なリズムの上にメロディが乗る構図がはっきりした。
実際に聴くと、音数は多いのに隙間が目立つ。リズムは細かく刻まれているが、ぎゅうぎゅうに詰め込まれていない。ベース、ドラム、シンセ、ギターがそれぞれ別の役割を持ち、互いにぶつからない。Joy Division時代の緊張感を残しつつ、踊れる方向へ寄っていく途中の空気が、そのまま音になっている。
代表曲「Blue Monday」をめぐる位置づけ
このアルバムの話題として最も大きいのは「Blue Monday」だが、これは本編には収録されていない。1983年3月に12インチ・シングルとして先行発売され、New Orderを代表する曲として広く知られることになる。後に史上最も売れた12インチ・シングルとして語られることも多く、アルバムとは別の作品として扱うバンドの方針を示す存在でもある。
そのため『Power, Corruption & Lies』は、「Blue Monday入りのアルバム」というより、あのシングルと並走しながら別の流れを作った作品として見るほうが自然だ。収録曲では「Age of Consent」や「Your Silent Face」などが重要で、特に「Age of Consent」はアルバムの冒頭で新しいNew Orderの輪郭をはっきり示している。
ジャケットとFactoryの美学
Peter Savilleによるジャケットも、この作品の印象を決定づけている。フランスの画家Henri Fantin-Latourの《A Basket of Roses》を使ったデザインで、背後には色コードの仕掛けがある。表紙にはFACT 75、CDではFACD 75という番号が入り、裏面や内袋の構成も含めて、Factoryらしい管理された遊びが徹底されている。
このジャケットは、音楽雑誌やレコード棚の中でもかなり目を引く。花の静物画なのに、そこに載る音はかなり機械的で、しかも冷たさだけでは終わらない。このズレがNew Orderらしさでもある。2010年にはRoyal Mailの「Classic Album Cover」切手にも選ばれており、視覚面でも記憶され続けている。
当時の文脈と、その後への影響
1983年当時のUKでは、ポストパンクの次の段階として、シンセポップやクラブ文化が強く存在感を増していた。Depeche ModeやPet Shop Boysのような後続の電子系アクトを考えると、このアルバムが作った接点はかなり大きい。ロックバンドの編成を保ちながら、ダンス・ミュージックの設計を取り込むやり方は、その後のエレクトロニック・ロックの基準のひとつになった。
Rolling Stone誌が重要作として扱い、UKチャートでは最高4位を記録した。New Orderにとっては、Joy Divisionの影から抜け出すための作品であると同時に、以後の活動の土台を作った作品でもある。陰鬱さを引きずりつつ、機械の精度とポップな輪郭を手に入れた、その切り替わりの瞬間がここにある。
盤の見どころ
- UKオリジナルはFactory FACT 75
- 表記はスパインでFACT SEVENTY FIVE、ラベルはFACT 75
- ダイカット仕様のバックカバー、黒い光沢のある内袋
- マトリクスはG#表記、ランオフにはSTRAWBERRYの刻印
- 後年の再発では、CDやLPで収録形態やカタログ番号が変わっている
- 一部のカセットやUS盤では「Blue Monday」とB面「The Beach」が追加収録されている
New Orderの中でも、音の作り替えがもっともはっきり見える一枚。ポストパンクの続きでありながら、クラブ・ミュージックの入口にも立っているアルバムとして、今も輪郭がくっきり残っている。
トラックリスト
- A1 Age Of Consent
- A2 We All Stand
- A3 The Village
- A4 5 8 6
- B1 Your Silent Face
- B2 Ultraviolence
- B3 Ecstasy
- B4 Leave Me Alone