Roedelius - Jardin Au Fou (1979)
Roedelius『Jardin Au Fou』——クラウトロックの文脈を離れた、静かな小品集
Hans-Joachim Roedeliusの『Jardin Au Fou』は、1979年にフランスのEGGから発表されたソロ第2作で、のちに2009年、ドイツのBureau Bから再発されたアルバムだ。ClusterやHarmoniaで知られるRoedeliusが、バンドの看板を背負う形ではなく、より私的で小さなスケールの作品をまとめた時期の重要作として扱われている。今回のBureau B盤は、その再評価の流れの中で出たもので、当時の写真や、Asmus Tietchensによる短いエッセイ「Baroque instead of Krautrock」を収めた再発仕様になっている。
制作背景と録音の経緯
本作は1978年4月から7月にかけて、ベルリンのParagon Studiosで録音・ミックスされた。プロデュースはPeter Baumann。Tangerine Dreamの元メンバーとして知られる彼が、自身のParagonスタジオで手がけた仕事のひとつで、同時期にはKonrad SchnitzlerやAsmus Tietchensらの作品にも関わっていた流れの中にある。EGGというレーベルが、ドイツの電子音楽や前衛寄りの作品を求めていた背景があり、その受け皿としてRoedeliusのソロ作も形になった、という経緯が確認できる。
収録曲はRoedelius名義の全曲で、出版はParagon-Verlag Berlin。クレジット上では、録音とミックスの時期が明確に記されており、制作の手順が比較的はっきり追える作品でもある。2009年の再発盤では、初期セッション時の白黒写真が内側の保護カバーに使われ、オリジナル期の空気感を補う形になっている。
作品の位置づけと当時の文脈
1979年の西ドイツは、パンクやディスコの影響を受けたNeue Deutsche Welleが広がりつつあった時期だが、『Jardin Au Fou』はそうした動きとは距離を置いた場所にある。大きな音圧やシーンの記号を前面に出すのではなく、短い小品を積み重ねた構成で、室内楽的なまとまりが強い。公式サイトでは、電子音、ピアノ、フォークやクラシカルな要素を使った13曲の小品集として紹介されている。
この作品は、ClusterやHarmoniaでの活動を経たRoedeliusが、グループの文脈から少し離れていく過程を示す一枚としても見られている。クラウトロックの中心人物という肩書きから、そのまま実験性の強い方向へ進むのではなく、より個人的で、旋律の輪郭が見えやすい作風へ移っていく。その流れの中で『Jardin Au Fou』は、ソロ作としての輪郭をはっきりさせた盤面になっている。
再発時のライナーでAsmus Tietchensは、このアルバムを「romantic」「joie de vivre」に満ちたものとして捉え、フェアグラウンドのオルゴールや回転木馬のような感覚に触れている。ここでの焦点は、難解さよりも、短いフレーズの連なりや、素朴な明るさのほうに置かれている。
後世での再評価と聴きどころ
発売当時に大きなチャート実績が確認されているわけではないが、その後の再発と批評的な読み直しによって評価が固まったタイプの作品だ。AllMusicは本作にcult statusがあるとし、後年の電子ポップ系の潮流にもつながる要素を持つと述べている。明確なカバーやサンプリングの例は、確認できた範囲では見当たらないものの、2009年前後の再発を通じて、アンビエントやポスト・クラウトロックの文脈で聴かれ直したことは大きい。
サウンド面では、AllMusicが短い断片的な曲、ムーグ的というよりmuzak的なファンファーレ、フォークとクラシカルの混交、明るい長調のフレーズ、素朴なピアノと原初的なシンセを特徴として挙げている。別の紹介では「haiku electronics and piano」と表現されており、音数の少ない構成の中で、小さなモチーフが切り替わっていく作りがポイントとして語られている。Ox Fanzineは、子どもっぽさや気負いのなさ、naivetyを帯びた陽気さに注目し、タイトルの印象とは異なり、親しみやすい側面を指摘している。
2009年再発盤の意味
Bureau B盤は単なる復刻ではなく、初期セッション写真やティーチェンスのエッセイを加えた再評価のパッケージになっている。オリジナル盤が1979年のEGGから出たのに対し、2009年盤はドイツのBureau Bによるライセンス再発で、当時の資料を補強しながら作品の位置を整理した形だ。Bureau Bはクラウトロックやその周辺の再発に強いレーベルとして知られており、そのカタログの中で『Jardin Au Fou』も、Roedeliusのソロ史を語るうえで外しにくい一枚として扱われている。
『Jardin Au Fou』は、巨大な展開よりも、小さな旋律と短い時間の積み重ねで成立している。1970年代末の西ドイツの電子音楽が、どこまで私的な表現へ寄れるかを示した作品として、今も再発のたびに見直されている盤面だ。
トラックリスト
- A1 Fou Fou
- A2 Toujours
- A3 Rue Fortune
- A4 Balsam
- A5 Café Central
- B1 Le Jardin
- B2 Gloria Dolores
- B3 Étoiles
- B4 Schöne Welt
- B5 Finale