Hell - Munich Machine (1998)
Hell『Munich Machine』(1998)
DJ Hellことヘルムート・ガイヤーによる『Munich Machine』は、1998年にドイツのDisko Bから出たアルバム。ミュンヘンを拠点にした電子音楽レーベルからのリリースで、タイトルからも分かる通り、都市名そのものを作品の芯に置いた一枚である。DJ Hellは1962年生まれ、1980年代以降にミュンヘン、ベルリンのクラブシーンで活動してきた人物で、後にはInternational Deejay Gigolo Recordsの主宰者としても知られる。この時点での彼は、DJとしての現場感覚と、レーベル運営で培った選曲眼をそのまま作品に持ち込んでいる印象が強い。
ヨーロピアン・ディスコの記憶を引き直す内容
『Munich Machine』は、1970年代にジョルジオ・モロダーが関わったディスコ・プロジェクト「Munich Machine」からタイトルを借りている。作品全体にも、その系譜を踏まえたヨーロピアン・ディスコへの視線が通っている。単に過去の音を模倣するのではなく、80年代後半のハウス、イタロ・ディスコ、ニューウェイヴの要素を、1990年代末のテクノ/ハウスの文脈へつなぎ直した構成になっている。収録曲ごとに温度差はあるが、全体としては、フロア向けの推進力と、引用の感覚が同居している。
曲ごとの引用と再構築
この作品でまず触れられるのが「Copa」。バリー・マニロウの「Copacabana」を大胆に組み替えたトラックとして知られている。原曲の輪郭を残しつつ、ダンスミュージックの文脈へ置き換える手つきがはっきりしていて、引用元が分かる人にはニヤリとさせる作り。もう一つの「Dominatrix」も、古いポップソングの要素を下敷きにしながら、別の言葉とイメージへ組み替えていくタイプの楽曲で、こうした“元ネタをそのまま再生しない”やり方がアルバム全体の性格を形づくっている。
中でも重要なのが「For Your Love」。後にギター・ロックとダンス・ミュージックの接続として語られるエレクトロクラッシュの先行例として挙げられることが多いトラックで、ロック的な感触とクラブ向けのビートが同じ盤面に収まっている。この時期のDJ Hellは、ニューウェイヴやパンクの気配、テクノ、そして皮肉っぽさを含んだキャンプ感覚を混ぜ合わせる方向へ進んでいて、その流れがここでも確認できる。
1990年代末の位置づけ
1998年という年は、テクノがすでに硬質な機能美だけで語れなくなり、ハウスやディスコの再参照、ロックとの接触、ポップの再解釈が活発だった時期でもある。『Munich Machine』は、その中でミュンヘンという土地のディスコ史を背負いながら、ベルリンのクラブ文化とも響き合う作りになっている。DJ Hell自身がE-WerkやTresorの現場で活動してきたことを思うと、スタジオ作品でありながら、どの曲にもDJ的な展開の意識が通っているのが見えてくる。
レーベルのDisko Bも、ミュンヘン発の電子音楽レーベルとして90年代のドイツ・クラブミュージックを支えた存在で、この盤はその空気をよく伝える一枚。過去のディスコ、当時のハウス/テクノ、そして後のエレクトロクラッシュにつながる感覚まで、いくつもの線が一本のアルバムに束ねられている。
まとめ
『Munich Machine』は、DJ Hellの制作姿勢がはっきり表れたアルバムであり、単なる1990年代のテクノ作品としてだけでは収まらない内容を持つ。モロダー以後のミュンヘン・ディスコ、80年代のポップ感覚、90年代末のクラブ・サウンドが、引用と再構築の形で同居している。特に「Copa」と「For Your Love」は、この盤の性格をよく示す代表曲として押さえておきたいトラックだ。
トラックリスト
- A1 Suicide Commando 5:29
- A2 Dominatrix 5:10
- B1 Copa 5:45
- B2 Berimbau 5:08
- C1 This Is For You 5:40
- C2 Jack The House 6:13
- D1 For Your Love 7:21
- D2 Bass Mechanic 4:40