Icare - Aquarelle (1980)
Icare『Aquarelle』について
フランスのプログレッシブ・ロック・グループ、Icareが1980年に残した『Aquarelle』は、SRCから出た唯一のアルバムとして知られている作品だ。モゼル地方のバンドとして語られることが多く、フランス国内の小規模レーベルから静かに出てきた盤という印象が強い。派手な話題性よりも、後年になってから掘り起こされるタイプのレコードで、フレンチ・プログレの流れの中でも少し位置が見えにくい一枚として扱われている。
このアルバムの面白さは、まず編成にある。メンバーはMichel Fauconier、René Tocchini、Salvatore Ministeri、Edwin Ladowski、Jean François Backの5人で、ギターが複数本前に出る一方、キーボードを中心にした組み立てではない。フランスのプログレというと、鍵盤の装飾や組曲的な展開を思い浮かべる人も多いが、『Aquarelle』はそのイメージから少しずれたところにある。流れるようなギターの掛け合い、旋律を先に立てた曲作り、そして硬すぎない演奏感が、作品全体の輪郭を作っている。
作品の位置づけ
Icareは70年代末のフランス・プログレの文脈に置かれるグループだが、『Aquarelle』はその中でもかなり個性的な位置にある。AtollやMona Lisa、Angeのようなフランス勢と比較されることが多く、同時代の英国勢ではCamelやWishbone Ashを連想させるという受け止め方も見られる。実際、ギター主体の流れと、旋律を押し出す作りにはそうした比較がしやすい。とはいえ、単純に英国風へ寄っているわけでもなく、フランス語圏のバンドらしい歌の運びや叙情の置き方が残っている。
1980年という時期も重要だ。フレンチ・プログレの第一波がすでに過去形になりつつある中で、こうした作品が小レーベルから出ている事実そのものが、当時のローカルなロック環境を示している。SRCはナンシーを拠点にした独立レーベルで、主にフォーク系のカタログを持ちながら、少数ながらプログレやロック、ポップの作品も出していた。そのカタログの中で『Aquarelle』は、かなりロック寄りの存在として目立つ。
音の印象
この作品は、構えた大作感よりも、曲の流れそのものを聴かせる場面が多い。ギターの音は前に出るが、押しつけがましさは弱い。リズム隊も過度に派手ではなく、全体のテンポ感を保ちながら進む。耳に残るのは、展開よりもフレーズの運びだ。メロディが先に立ち、そこに演奏がついていく形で、結果として「流麗」と呼ばれやすい性格が生まれている。
また、フュージョン寄りと見られるのもわかる。硬質なロックの推進力だけで押すのではなく、和音のつなぎ方やフレーズの滑らかさに余裕がある。とはいえ、ジャズ・ロック的な技巧の見せ合いに寄るわけでもない。どこまでもギター主体のロック作品としてまとまっていて、その中にフランス的な抒情が差し込む、そんな印象が残る。
当時の受け止められ方
商業的な広がりは大きくなく、全国的なヒット盤として語られる作品ではない。むしろ、後年のリスナーやコレクターの間で「知られていないが耳に残るフランス盤」として扱われてきた。SRC盤の中でもオブスキュアな存在で、フレンチ・プログレの棚を深く掘ったときに出てくる一枚、という立ち位置が近い。
その意味では、Icareにとって『Aquarelle』は唯一作であること自体が重要だ。バンドの代表作というより、バンドそのものを示す記録として残っている。アルバム一枚で活動がまとまっているため、聴き手はここにグループの個性を集中的に見ることになる。ギター編成、穏やかな推進力、フランス語圏の空気感。その3点が、この作品の核になっている。
まとめ
『Aquarelle』は、派手な名盤として語られるタイプではないが、フランスの地方バンドが残した80年のプログレ作品として、しっかりと輪郭を持ったアルバムだ。キーボード中心ではない編成、メロディ重視の作り、CamelやWishbone Ashを思わせるギターの流れ、そしてフレンチ・プログレの叙情。その組み合わせが、この一枚を特別な位置に置いている。
フランスの小さなレーベルSRCから出た、Icare唯一のアルバム。大きな話題にはならなかったが、今ではその静かな存在感こそが、この作品の印象を決めている。
トラックリスト
- A1 Aquarelle 8:45
- A2 Adam 7:30
- A3 Mon Ami Benjamin 2:50
- B1 Le Mousse Capitaine 6:19
- B2 Prière D'Un Roi Déchu 3:58
- B3 In Memory Of 4:25
- B4 Pastorale 4:02