Isaac Hayes - Hot Buttered Soul (1969)
Isaac Hayes 1969

Isaac Hayes - Hot Buttered Soul (1969)

Funk / Soul Funk Soul

Isaac Hayes『Hot Buttered Soul』——1969年のソウルを大きく押し広げた一枚

Isaac Hayesの『Hot Buttered Soul』は、1969年にEnterpriseから発表されたアルバムだ。USのソウル/ファンクの文脈にありながら、収録曲のスケール感、編曲の組み立て、曲の伸び方がかなり独特で、当時のソウル作品の中でも存在感が強い。HayesはStax周辺で作曲家、プロデューサー、演奏家として活動してきた人物だが、この作品ではソロ・アーティストとしての輪郭がはっきり前に出てくる。のちの大きな成功作『Shaft』へつながる前段階として見ても重要な位置づけのアルバムだ。

レーベルはEnterprise、カタログ番号はENS 1001。Stax系の流れにあるレーベルで、メンフィスの黒人音楽の文脈を背負った作品でもある。1960年代末のソウルは、短い楽曲を中心にしたシングル志向と、アルバム全体で世界を作る志向が並走していた時期だが、『Hot Buttered Soul』は後者を強く押し出した作品として語られやすい。曲数は多くない一方で、1曲ごとの尺が長く、演奏の展開をじっくり聴かせる構成になっている。

アルバム全体の印象

この盤を聴くとまず、歌い方と演奏の間合いが印象に残る。Isaac Hayesの声は、ソウル・シンガーとしての艶やかさを持ちながら、語りに近い抑制もある。高い音で押し切るタイプではなく、低く構えて、フレーズの終わりでじわっと熱を残すような歌い方だ。そこにストリングス、リズム隊、オルガンやギターが重なり、曲が一気に進むというより、少しずつ層を増やしながら広がっていく。

同時代のソウルと比べると、曲の長さがかなり大きな特徴だ。シングルで切り出す前提のコンパクトな構成とは違い、ここでは演奏の反復やブレイク、語りのようなパートがそのまま作品の骨格になっている。こうした作りは、同じ時代のよりファンク寄りの流れや、ジャズ的な展開感とも接点を持っている。ソウルのフォーマットを保ちながら、アルバム単位で聴く楽しさを強くした作品として見えてくる。

注目曲「Walk On By」

最初に大きく印象を残すのが「Walk On By」だ。もともと有名な楽曲を、Isaac Hayesはかなり長いスケールで再構成している。冒頭からすぐに歌に入るのではなく、イントロや演奏のたまりを長く取ることで、原曲の知名度を借りながらも別の曲のような重さを作っている。歌そのものは抑えたトーンで進むが、途中でオーケストラ的な広がりが見えてくるあたりがこのアルバムらしい。

聴いていて分かりやすいのは、単に長くしたのではなく、緊張と解放の置き方が細かいことだ。リズムが前へ出る場面と、音数を減らして空間を聴かせる場面の切り替えがあり、そのたびに曲の輪郭が変わる。ソウル・バラードの再解釈としても、Hayesのアレンジ感覚を示す代表的な一曲だろう。

注目曲「By the Time I Get to Phoenix」

「By the Time I Get to Phoenix」もこのアルバムを語るうえで外せない。こちらも既存曲を素材にしながら、かなり長尺の演奏で組み立てている。冒頭の入り方からして、普通のポップ・ソングの尺を前提にした進行ではなく、徐々に空気を温めていくような構成だ。ヴォーカルが前に出る部分と、インストゥルメンタルの流れが続く部分の切り替えがゆるやかで、曲全体に余白がある。

この曲では、Hayesの歌が感情を直接ぶつけるというより、言葉の置き方で情景を作る方向に向いている。結果として、失恋を歌う内容であっても、悲しみを前面に押し出すというより、長い時間をかけて気分を沈めていくような印象が残る。ソウルの表現を、よりシネマティックな方向へ広げた例として見ることもできそうだ。

注目曲「One Woman」

アルバムの中で比較的まとまりのあるグルーヴを感じやすいのが「One Woman」だ。長尺曲が並ぶ中で、リズムの推進力が分かりやすく、ファンク寄りの感触も見えやすい。ベースとドラムの動きが前面に出て、そこにホーンやオルガンが厚みを足していく流れで、Hayesの作品の中でもビートの存在感を確認しやすい一曲だ。

この曲を聴くと、Isaac Hayesが単なるバラードの歌い手ではなく、バンド全体のうねりを設計する人でもあることが見えてくる。メロディだけで引っ張るのではなく、反復するリズムの上で声をどう置くかという発想が強い。後年のブラック・ミュージックに続く、重心の低いグルーヴ感の先取りのようにも感じられる。

作品の位置づけ

『Hot Buttered Soul』は、Isaac Hayesのソロ・キャリアを決定づけた初期の重要作として扱われることが多い。Stax周辺で培ったソウルの語法を土台にしながら、アルバム全体を長い時間軸で聴かせる作りへ踏み込んでいる点が大きい。のちに『Shaft』で映画音楽としてさらに広い成功を収めるが、その前にすでに、Hayesはソウルを“曲単位”ではなく“作品単位”で拡張する方向を示していた。

1969年という時期を考えると、このアルバムの存在感はかなり大きい。ソウルが変化の途中にあった時代に、Hayesは歌、演奏、編曲、空間の使い方をまとめて提示した。短いヒット曲の集まりではなく、1枚を通して流れを作るという発想がはっきりしている。結果として『Hot Buttered Soul』は、Isaac Hayesというアーティストの個性を示すだけでなく、ソウル・アルバムのあり方そのものを広げた作品として記憶されている。

トラックリスト

  1. A1 Walk On By 12:00
  2. A2 Hyperbolicsyllabicsesquedalymistic 9:55
  3. B1 One Woman 5:00
  4. B2 By The Time I Get To Phoenix 18:40

動画

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