Stevie Wonder - Hotter Than July (1980)
Stevie Wonder 1980

Stevie Wonder - Hotter Than July (1980)

Pop Jazz Funk / Soul Reggae Funk Soul Disco Rhythm & Blues Reggae

Stevie Wonder『Hotter Than July』について

1980年にリリースされたスティーヴィー・ワンダーの『Hotter Than July』は、70年代に大きな成果を重ねた彼が、80年代の入口であらためてポップ、R&B、ファンク、レゲエを整理し直したようなアルバムだ。前作『Journey Through the Secret Life of Plants』の実験性が強かった流れのあとに置かれた作品で、ここでは曲の輪郭がはっきりしていて、リズムの推進力も前面に出ている。録音はロサンゼルスのWonderland Studiosを中心に行われ、Record Plantのリモート・トラックも使われている。80年という時代の空気をまといながら、スティーヴィーらしい作曲の強さがきちんと残っている一枚という印象だ。

アルバムの位置づけ

この作品は、スティーヴィー・ワンダーのディスコグラフィーの中でも、70年代の大作群のあとに置かれた重要な節目にあたる。『Innervisions』『Songs in the Key of Life』のような大規模な作品と比べると、全体の構成はややコンパクトで、メロディやビートの分かりやすさが前に出る。とはいえ、単なる軽い回帰ではなく、社会的メッセージとポップ性を同じ盤面に置いている点がこの時期らしい。ソウルやファンクの流れに、当時のレゲエの要素を自然に混ぜ込んでいるのも特徴的だ。

スティーヴィー・ワンダーは1950年生まれのアメリカのシンガー、作曲家、マルチ・インストゥルメンタリストで、幼少期からの視覚障害を抱えながら、モータウンを代表する存在になった人物だ。『Hotter Than July』は、そのキャリアの中でも、社会性とヒット感覚がかなり近い距離で同居している作品として聞こえる。

代表曲とアルバムの核

このアルバムを語るうえで外せないのが「Master Blaster (Jammin’)」だろう。ボブ・マーリーへの敬意が色濃いこの曲は、レゲエのリズム感を土台にしながら、スティーヴィーらしい鍵盤のフックとポップな押し出しを備えている。硬すぎず、しかし軽すぎもしない。実際に聴くと、低音のうねりとシンコペーションの置き方がかなり丁寧で、当時のアメリカのR&B作品の中でもレゲエの取り込み方が自然に感じられる。

もうひとつ重要なのが「Happy Birthday」だ。これは単なるアルバム収録曲というより、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアの誕生日を祝日にする運動と結びついた曲として知られている。音楽としては明快なコーラスと祝祭感のある展開を持ちながら、作品の外側に社会的な意味を持ち込んでいるところが大きい。スティーヴィー・ワンダーがこの時期に、音楽をメッセージの器として使っていたことがよく分かる場面だ。

さらに「Lately」のようなバラードも、アルバム全体の中で存在感がある。派手なアレンジよりも歌の線を見せる曲で、後年まで歌い継がれる理由が伝わりやすい。アップテンポ曲との対比で、作品全体の温度が単調にならない。

制作と当時の文脈

1980年当時のアメリカのR&Bやポップスは、ディスコの余韻を引きつつ、80年代的な打ち込みや洗練へ向かう途中にあった。『Hotter Than July』は、その移行期にあって、生演奏の粘りとポップな明快さを両立させている。ファンクのリズム、ソウルの歌心、レゲエの揺れを一枚の中にまとめている点が、この作品の分かりやすい個性だ。

レーベルはTamlaで、US盤はゲートフォールド仕様。バックカバーには20周年ロゴが入り、Martin Luther King, Jr.の内袋が付属していた。こうした仕様からも、作品が単なるヒット狙いではなく、当時のスティーヴィーの社会的な立ち位置と結びついていたことが見えてくる。1980年のオリジナル盤として聴くと、ジャケットや付属物も含めて、アルバム全体のメッセージ性がかなりはっきりしている。

チャート面と評価

アルバムは英国チャートで2位まで上昇し、シングルも複数がヒットした。特に「Master Blaster (Jammin’)」は米R&Bチャートで大きな成功を収め、ポップ・チャートでも上位に入っている。『Hotter Than July』は、70年代後半の実験的な流れから、より広いリスナーに届く形へ戻した作品として受け止められることが多いが、その一方で、スティーヴィー・ワンダーの作曲力や編曲感覚が弱まっていないことも確認できる。

同時代のファンクやソウルと比べても、ここには単なる流行追随ではない芯がある。レゲエを取り入れた点では、当時のポップス全体の中でも印象が強く、ボブ・マーリー以後のレゲエ受容を考えるうえでも見逃しにくい。政治性、祝祭性、ダンス感覚が一枚に収まった1980年のスティーヴィー・ワンダー作品として、位置づけはかなりはっきりしている。

ひとことでいうと

『Hotter Than July』は、スティーヴィー・ワンダーが持つメロディの強さと社会的な視点を、1980年のサウンドで再配置したアルバムだ。大作期の余韻を引きながらも、曲ごとの輪郭は明快で、特に「Master Blaster (Jammin’)」と「Happy Birthday」は作品全体の性格をよく表している。70年代の頂点作と並べて語られることが多い一枚だが、その比較の中でも、80年代初頭のスティーヴィーを知る入口として十分に重要な内容になっている。

トラックリスト

  1. A1 Did I Hear You Say You Love Me 4:07
  2. A2 All I Do 5:06
  3. A3 Rocket Love 4:40
  4. A4 I Ain't Gonna Stand For It 4:39
  5. A5 As If You Read My Mind 3:37
  6. B1 Master Blaster (Jammin') 5:07
  7. B2 Do Like You 4:26
  8. B3 Cash In Your Face 4:01
  9. B4 Lately 4:04
  10. B5 Happy Birthday 5:57

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