Pedro Santos - Krishnanda (1968)
Pedro Santos『Krishnanda』について
Pedro Santosは、ブラジル出身のパーカッショニスト、作曲家、そして打楽器の発明家として知られる人物だ。『Krishnanda』は1968年に生まれた作品で、2016年にUKのMr Bongoから再発盤が出ている。ブラジル音楽の土台を持ちながら、ジャズ、ラテン、ファンク/ソウルの要素が混ざり、さらにサイケデリックな感触まで含んだ一枚として語られることが多い作品だ。Pedro Santosという名前だけでは輪郭をつかみにくいが、打楽器奏者としての視点が前面に出た内容だと見ると、かなり整理しやすい。
この作品が面白いのは、単にリズムが強いだけではなく、音の配置そのものに独特の感覚があるところだ。Pedro Santosは電子バンブーやマウス・ベリンバウといった打楽器を発明した人物でもあり、その背景を踏まえると、『Krishnanda』には既存のブラジル音楽の枠に収まりきらない発想が通っているように聴こえる。1960年代後半という時期も重要で、ボサノヴァの洗練、サンバの伝統、当時のジャズの拡張、サイケデリックな感覚が同じ時代に並走していた時期の空気がある。
作品の位置づけ
Pedro Santosのディスコグラフィーの中で、『Krishnanda』はとくに再評価の対象になってきた作品と見てよさそうだ。大きなヒット作として広く流通したタイプというより、後年になってレコード愛好家や再発レーベルの文脈で注目が集まった一枚という印象が強い。Mr Bongoによる2016年盤は、その再評価の流れを代表するリイシューのひとつだろう。
オリジナルの1968年盤と2016年の再発盤を比べると、まず時代の違いがそのまま意味を持つ。オリジナルは当時のブラジル音楽の空気に近い温度で聴かれたはずで、再発盤は現在のリスナーが作品を掘り起こすための入口になっている。Mr Bongoはブラジル音楽やラテン圏の重要作を丁寧に再発してきたレーベルなので、この盤もその系譜の中で扱われている。
聴きどころ
このアルバムの聴きどころは、まず打楽器の扱いだ。リズムが単に前へ進むための土台ではなく、曲の輪郭そのものを決めている。シンプルに拍を刻むというより、細かな打音や間の取り方で空間を組み立てていくタイプの演奏で、ブラジル音楽の身体性と、実験音楽的な発想が同居しているように感じられる。
また、ジャズやファンク/ソウルの要素が入る場面でも、演奏が過度に都会的になりすぎないのが特徴だ。あくまでパーカッションを中心に据えたまま、メロディやアレンジがその周囲を回る構成で、聴感上はかなり立体的だ。サイケデリックというタグも、ギターが派手に歪むといった単純な意味ではなく、音の重なりや反復が少しずつ感覚をずらしていくところに出ている。
代表曲・注目曲について
『Krishnanda』は全体を通して一つの流れで聴く性格が強い作品だが、曲ごとの色分けもはっきりしている。とくに打楽器が前に出る曲では、Pedro Santosの個性が最も分かりやすい。音数を増やして盛り上げるのではなく、打音の配置を少しずつ変えながら、同じグルーヴの中に違う景色を作っていく。ここは彼がパーカッショニストであること、そして楽器の発明家でもあることが、そのまま音に出ている部分だろう。
一方で、旋律やコーラス、アンサンブルのまとまりが印象に残る曲では、作品全体の温度が少し変わる。リズムの強さだけで押し切らず、メロディの流れをしっかり置くことで、アルバムとしての聴きやすさが保たれている。こうした曲は、単なる珍盤やコレクター向けの再発にとどまらず、1960年代末のブラジル音楽が持っていた広がりを確認させる役割も担っている。
同時代とのつながり
この作品を同時代の文脈で見ると、ブラジルのMPBやサイケデリック・ブラジルの周辺と並べて語られることがあるのも納得しやすい。たとえば、リズムの感覚や実験性という点では、当時のブラジル音楽の拡張を示す作品群と接点があるし、ジャズの側から見ても、パーカッションを中心に据えた発想はかなり独特だ。Pedro Santosは、そうした流れの中で、演奏者としてだけでなく発明家としての視点も持ち込んだ人物として見ておくと理解しやすい。
2016年のMr Bongo盤は、そうした背景を現代の耳に接続する役割を持つ再発盤だ。1968年というオリジナルの時代性と、再発によって広がった現在の聴かれ方。その両方を踏まえると、『Krishnanda』は、ブラジル音楽の周縁ではなく、むしろその豊かさが凝縮された一枚として捉えられる。パーカッションを軸にした作品として、そしてジャンルの境界をまたぐ記録として、今も参照され続ける理由がある作品だ。
トラックリスト
- A1 Ritual Negro 1:58
- A2 Agua Viva 2:02
- A3 Um So 2:06
- A4 Sem Sombra 3:07
- A5 Savana 2:50
- A6 Advertencia 2:59
- B1 Quem Sou Eu? 2:31
- B2 Flor De Lotus 3:06
- B3 Dentro Da Selva 2:15
- B4 Desengano Da Vista 2:42
- B5 Dual 2:56
- B6 Arabindu 1:59