Miles Davis - You're Under Arrest (1985)
Miles Davis 1985

Miles Davis - You're Under Arrest (1985)

Rock Jazz Funk / Soul Fusion

Miles Davis『You're Under Arrest』解説

Miles Davisの『You're Under Arrest』は、1985年に発表された作品で、80年代のマイルスを代表する1枚として語られることの多いアルバムだ。長いキャリアのなかでも、エレクトリックな編成と当時のポップ・カルチャーを取り込んだ時期に位置し、ジャズ、ロック、ファンクの要素が前面に出ている。前作『Decoy』から続く80年代中盤の流れのなかで聴くと、この作品が当時のマイルスの現在地をかなりはっきり示していることがわかる。

このレコードはヨーロッパ盤としてCBSからリリースされており、CBS 26447のカタログ番号を持つ。マイルス本人のトランペットを軸に、John Scofield、Bob Berg、Robert Irving III、Darryl Jones、Al Foster、Vince Wilburn Jr.らが参加し、さらにStingのナレーション、John McLaughlinのギターもクレジットされている。録音時期は1984年1月から1985年1月までで、1986年の第28回グラミー賞では「Best Jazz Fusion Performance, Vocal or Instrumental」にノミネートされている。

80年代マイルスの輪郭がはっきり出た作品

『You're Under Arrest』を聴くと、まずリズムの組み立てが目立つ。ドラムやベースが前に出る場面が多く、そこにギターやシンセサイザーが重なることで、曲の輪郭が細かく刻まれていく。Miles Davisが1960年代後半から進めてきたエレクトリック路線の延長線上にありながら、80年代らしい音像の整理も感じられる。ジャズの即興性だけでなく、ロックやファンクの反復感が曲の推進力になっているのが特徴だ。

また、この時期のマイルスは、従来のジャズ・コンボというより、複数の音色と役割を持つバンド全体を一つの装置のように扱っている印象がある。本作でも、ソロがただ長く続くというより、短いフレーズや音色の切り替えで場面が進む。フュージョンという言葉でまとめられやすいが、実際にはその枠だけでは収まらない緊張感がある。

表題曲「You're Under Arrest」

タイトル曲「You're Under Arrest」は、この作品の性格を端的に示す一曲だ。曲名からもわかる通り、都市的でやや緊迫した空気を持ち、リズムの切り返しとフレーズの応酬で進んでいく。マイルスのトランペットは、流麗に歌い上げるというより、短い発音で空間を切るように置かれていて、バンド全体の機械的な推進力とよく噛み合っている。

この曲では、ギターとシンセが音の隙間を埋めるというより、むしろ互いにぶつかり合いながら前進していく感じがある。80年代のマイルス作品らしく、音数は多いが、各パートの役割は比較的はっきりしている。タイトルの持つ物語性もあり、アルバムの入口として耳に残りやすい。

「Human Nature」と当時のポップ感覚

収録曲のなかでも広く知られているのが「Human Nature」だ。もともとは当時のポップ・ソングとして知られていた楽曲だが、ここではマイルス流の解釈によって、メロディの輪郭とバンドの質感が別の表情を見せる。原曲の持つ滑らかな流れをそのままなぞるのではなく、フレーズの置き方や間の取り方で印象を変えているのが面白い。

この曲は、80年代マイルスが同時代の音楽をどう自分の言葉に置き換えていたかを示す例にもなっている。単に流行曲を取り込んだというより、素材を自分のバンドの音に合わせて再構成している感じだ。聴きどころは、歌ものとしての親しみやすさよりも、その親しみやすい輪郭が演奏の中で少しずつ崩され、別の緊張感へ変わっていくところにある。

John McLaughlinやStingの参加が生む接点

本作にはJohn McLaughlinが参加している点も見逃せない。マイルスとマクラフリンの関係は、70年代初頭の電化ジャズを思い出させる要素でもあり、ここでは過去の延長というより、80年代の編成のなかで再び接点が作られている。ギターの鋭いアタックが、アルバム全体の硬質な手触りに寄与している。

さらにStingのナレーションが入ることで、作品の都市的なイメージはよりはっきりする。歌唱ではなく語りとして置かれているため、曲の流れを壊すというより、場面転換のように機能している。こうした外部の要素を自然に組み込むところにも、この時期のマイルスらしさがある。

この時期の位置づけ

『You're Under Arrest』は、Miles Davisの長いディスコグラフィーのなかでも、80年代後半へ向かう転換点のひとつとして見やすい作品だ。60年代の革新、70年代の電化、そして80年代の再始動という流れのなかで、当時のポップスやファンクと距離を取りすぎずに接続している。ジャズの伝統に立ちながら、同時代の音をどう取り込むかという課題に対して、かなり具体的な答えを出しているアルバムといえる。

ヨーロッパCBS盤としてのこのレコードも、1985年当時の国際的な流通のなかで出てきた1枚として興味深い。オリジナル期の空気をそのまま持った盤であり、80年代マイルスの音像を当時の形でたどるにはわかりやすい存在だ。録音と編成、選曲のまとまりを見ても、マイルスがまだ現在進行形の表現者として動いていた時期の記録になっている。

トラックリスト

  1. A1 One Phone Call / Street Scenes 4:34
  2. A2 Human Nature 4:30
  3. A3 Intro: MD 1 / Somethings On Your Mind / MD 2 7:17
  4. A4 Ms. Morrisine 4:57
  5. A5 Katia Prelude 0:40
  6. B1 Katia 7:37
  7. B2 Time After Time 3:37
  8. B3 You're Under Arrest 6:14
  9. B4 Medley: Jean Pierre / You're Under Arrest / Then There Were None 3:23
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