Miles Davis - Bitches Brew (1970)
Miles Davis 1970

Miles Davis - Bitches Brew (1970)

Jazz Fusion

Miles Davis『Bitches Brew』(1970) ― 電気楽器と編集で組み立てたマイルスの転換点

Miles Davisの『Bitches Brew』は、1970年3月30日に発表されたアルバムで、マイルスのキャリアの中でも大きな節目にあたる作品だ。前作『In A Silent Way』で見せた電気楽器の導入をさらに押し進め、ここではエレクトリック・ピアノ、エレクトリック・ベース、エレクトリック・ギターが前面に出る。録音は1969年8月19日、20日、21日の3日間。スタジオでの即興演奏をTeo Maceroがテープ編集で再構成し、通常のジャズ・レコードとは違う時間の流れを作っている。

この作品の位置づけは明確で、マイルスが1960年代後半に進めていた方向性を、そのまま1970年の形にしたものだ。ジャズの演奏をベースにしながら、ロックやファンクのリズム感、長い展開、反復、断片的な編集が組み合わさっている。後のフュージョンの出発点として語られることが多いのも、このあたりの作りに理由がある。

録音と演奏の組み立て

参加メンバーも豪華だ。Miles Davisのトランペットを中心に、Wayne Shorter、Bennie Maupin、John McLaughlin、Chick Corea、Joe Zawinul、Dave Holland、Harvey Brooks、Jack DeJohnette、Lenny White、Don Alias、Juma Santos、Billy Cobham、Airto Moreira、Larry Youngが並ぶ。ジャズの文脈にいる演奏家が多い一方で、各人がロック寄りのビートや電気楽器の響きに対応している点が面白い。

制作面では、Teo Maceroの編集が重要だ。3日間のジャムから素材を切り貼りし、ループやディレイ、エコーを加えて曲として再構成している。冒頭の「Pharaoh's Dance」だけでも多数の編集が入っているとされる。演奏をそのまま記録するのではなく、録音後の編集まで含めて1つの作品にしているところが、このアルバムの特徴になっている。

収録曲と耳に残る部分

全体は長尺曲中心で、短い楽曲の集まりというより、いくつかの大きな流れで聴かせる構成だ。代表曲としてまず挙がるのは「Pharaoh's Dance」と「Bitches Brew」。前者は細かく展開が変わり、後者はアルバムの中心に置かれたタイトル曲として、重い低音と断続的なフレーズが印象に残る。ほかにも「Spanish Key」「Miles Runs the Voodoo Down」など、曲名だけでも当時の空気を強く引く。

実際に聴くと、ソロが前に出る場面より、全体のうねりを追う場面が多い。誰か一人の名演を追いかけるより、複数の音が重なったり外れたりする感触が続く。ジャズの即興性は保ちながら、従来のビッグバンドやモード・ジャズとは別の組み方になっている。録音された演奏を編集で組み替えた結果、スタジオ作品としての性格がかなり強い。

当時の受け止められ方とその後

発売当初の反応は一様ではなく、伝統的なジャズを重視する聴き手からは戸惑いもあった。一方で、ロックやソウルに親しんだ層には強く響き、結果としてジャズ作品としては異例のセールスを記録した。RIAAではプラチナ認定、Billboard Jazz Albumsでは9位を記録している。

この作品の重要性は、その後の動きにも表れている。Wayne ShorterとJoe ZawinulはのちにWeather Reportを結成し、John McLaughlinはMahavishnu Orchestraへ進む。『Bitches Brew』に参加した面々が、70年代以降のジャズ/フュージョンの流れをそれぞれ別の形で押し広げていった流れは、かなりはっきりしている。

オリジナル盤について

このUS盤は1970年の初出盤で、赤い“two-eye”のColumbia「360 Sound」ステレオ・ラベル仕様。ゲートフォールド・ジャケットで、内側にはManufactured by Columbia Records/CBS, Inc.の表記がある。初期プレスではSanta Maria工場でのカッティングを示す“S”の刻印がランアウトに見られる。収録内容そのものは後年の再発盤とは同じでも、初期盤は当時のColumbiaの仕様をそのまま感じられる点がある。

なお、後年の再発では追加曲「Feio」が入るものがあるが、この1970年盤はオリジナルの内容に基づく。『Bitches Brew』は、マイルス・デイヴィスが電気楽器と編集を本格的に使い、ジャズの枠組みを組み替えていった時期を示す作品として、今も強い存在感を持っている。

トラックリスト

  1. A Pharaoh's Dance 20:07
  2. B Bitches Brew 27:00
  3. C1 Spanish Key 17:30
  4. C2 John McLaughlin 4:23
  5. D1 Miles Runs The Voodoo Down 14:03
  6. D2 Sanctuary 10:54

動画プレイリスト

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