Ramsey Lewis - Mother Nature's Son (1969)
Ramsey Lewis『Mother Nature's Son』(1969)
Ramsey Lewisが1969年にCadetから発表した『Mother Nature's Son』は、ビートルズの“The Beatles”、いわゆるホワイト・アルバム収録曲を中心に組み立てたインストゥルメンタル作品である。タイトル曲「Mother Nature's Son」を軸に、同時代のポップ・ソングをジャズ・ピアノの語法へ移し替えた一枚で、Ramsey Lewisのソウル・ジャズ路線がはっきり見える内容になっている。シカゴのCadetという土地柄もあって、都会的な整い方と、黒人音楽由来のグルーヴ感が同居した作品集としてまとまっている。
録音は1968年12月、シカゴのTer Mar Studioで行われた。ライブ録音のかたちを取り、シカゴ交響楽団のメンバーも加わっている点が特徴で、ピアノ・トリオの枠をそのまま拡張したような響きがある。Ramsey Lewisは1935年生まれのシカゴ出身ピアニストで、60年代にはすでにジャズとソウルの接点を押し広げた存在だった。この作品でも、ピアノのフレーズを前に出しつつ、リズム隊の押し出しと編曲の厚みで聴かせる作りになっている。
Charles Stepneyの編曲と、Moogの使い方
制作面で重要なのが、Chess/Cadet周辺で多くの仕事を残したアレンジャー、Charles Stepneyの関与である。StepneyはRamsey Lewisにホワイト・アルバムを勧め、自身でもいくつかの曲をアレンジして見せたというエピソードが残る。Lewisが元々ビートルズの熱心なファンではなかったことを考えると、この作品は単なる流行追随ではなく、編曲者の視点が先に立った企画だったことが分かる。
もうひとつの要点が、電子的な音色の導入である。Stepneyは、ビートルズが『Abbey Road』でMoogシンセサイザーを本格導入するより前の段階で、この作品にすでにMoogを取り入れている。ジャズ・ピアノのアルバムに、当時としてはかなり新しい質感を差し込んでいるわけで、60年代末のスタジオ制作の空気をよく映している。George Martinのプロダクションを意識したような、細部を作り込む姿勢も見える。
収録曲とアルバムの性格
本作はホワイト・アルバム収録曲を全体にわたって扱っているため、原曲を知っていると聴き方が変わる。メロディの骨格は残しながら、コードの置き方やリズムの跳ね方で別の曲として立ち上げていく作りで、歌ものの輪郭をインストゥルメンタルへ移し替える処理が丁寧だ。タイトル曲「Mother Nature's Son」は、原曲の素朴な感触を保ちつつ、ピアノのタッチとアンサンブルの厚みで色を変えている。ビートルズ楽曲の持つ旋律の強さが、そのままジャズ編曲の素材として機能している点が興味深い。
同じ時代には、ジャズ側からポップスを取り込む動きが各地で進んでいたが、Ramsey Lewisのこの作品は、ソウル・ジャズの手触りを保ったまま、編曲の工夫で聴かせるところに特徴がある。単にヒット曲を並べた企画盤というより、シカゴ録音、Stepneyのアレンジ、Moogの挿入といった要素が一体になった作品として成り立っている。
評価と位置づけ
チャートではBillboard Top Jazz Albumsで3位、Top Soul Albumsで10位を記録している。ジャズの枠だけでなく、ソウル方面でも受け止められたことが数字に出ている。AllMusicのBruce Ederが“an enjoyable excursion”と評しているように、演奏の快適さと企画の面白さが両立したアルバムとして見られている。
Ramsey Lewisにとっては、ポップ・ソングを素材にしながら自分の持ち味を前面に出した時期の一枚であり、60年代後半のソウル・ジャズの広がりをそのまま示す作品でもある。Cadetというシカゴのレーベル、Charles Stepneyの編曲、そしてビートルズ楽曲へのジャズ的な読み替え。そうした要素が重なって、1969年らしい温度を持ったアルバムになっている。
トラックリスト
- A1 Mother Nature's Son
- A2 Rocky Raccoon
- A3 Julia
- A4 Back In The USSR
- A5 Dear Prudence
- B1 Cry Baby Cry
- B2 Good Night
- B3 Everybody's Got Something To Hide Except Me And My Monkey
- B4 Sexy Sadie
- B5 Black Bird