Janko Nilovic - Soul Impressions (1975)
Janko Nilovic『Soul Impressions』(1975)
ジャンコ・ニロヴィッチの『Soul Impressions』は、1975年にフランスのライブラリー・レーベル、Edtions Montparnasse 2000から出た作品だ。ニロヴィッチはイスタンブール生まれで、1960年以降はパリを拠点に活動した作曲家、編曲家、鍵盤奏者、パーカッショニスト、ヴォーカリスト、プロデューサー。クラシック、ジャズ、ファンク、ポップ、サイケデリック、イージーリスニングまで広く手がけた人物で、本作もその幅の広さがそのまま出た一枚になっている。
この時代のモンパルナス2000は、映画、テレビ、広告向けの音楽を多く抱えたレーベルで、ニロヴィッチは看板作曲家として10作以上、のちには20枚以上の作品を残した。レーベル側は彼にかなり自由な制作環境を与えていたとされ、40人編成の楽団を呼ぶことも珍しくなかったという。『Soul Impressions』も、そうした環境の中で録音されたライブラリー・ミュージックの一例で、実用音楽でありながら、聴きものとしての密度が高い。
ソウル、ジャズ、ファンクが交差する内容
本作の中心にあるのは、ソウル・ジャズ、ジャズ・ファンク、R&B、イージーリスニングの要素だ。骨格はリズム重視だが、単にビートを前に出すだけではなく、管弦の重なりや鍵盤の動き、短いフレーズの反復で場面を切り替えていく作り。ライブラリー盤らしく1曲ごとの役割は明確で、映像の背景に置かれることを前提にしながら、音だけでも展開を追いやすい。
聴いていると、ファンクの歯切れとソウルの粘りが同じ曲の中で入れ替わる場面が多い。そこにヨーロッパ産のレコーディングらしい整理されたアレンジが乗るため、アメリカのソウル・ジャズとは少し違う距離感がある。粗さで押すタイプではなく、音数の多さと配置の細かさで引っ張る作り。ニロヴィッチの作品全体に共通する、旋律とリズムの両立がよく出ている。
収録曲「In The Space」が後年に広がったこと
本作で特に知られているのが「In The Space」だ。のちにノー・I.D.がジェイ・Zの「D.O.A. (Death Of Auto-Tune)」でこの曲をサンプリングし、その曲は2010年のグラミー賞を獲得した。ライブラリー・ミュージックの一曲が、ヒップホップの大きな文脈に入り込んだ例としてよく挙げられる。ニロヴィッチの音源はほかにも、The BeatnutsやJoey Bada$$、ドクター・ドレーらが参照してきた。
とくにドクター・ドレーが『Compton』収録の「Loose Cannons」で「Underground Session」を用いたことは、彼の音楽が単なる“珍しいネタ元”ではなく、現代のビート制作にそのまま接続する素材として扱われていることを示している。
レーベルと作品の位置づけ
Edtions Montparnasse 2000は、1968年にパリで始まったレーベルで、初期は各作品1000枚程度の少数流通だった。テレビ局やラジオ局向けに配られた後、一般市場に出る流れもあり、同じタイトルでもジャケット違いが存在することがある。本盤も黒ラベルのバリエーションが確認されている。
『Soul Impressions』は、ニロヴィッチの膨大な作品群の中でも、後年の再評価が特に進んだ一枚だ。フランスのライブラリー・ミュージックが持つ実験性、ジャズ・ファンクの推進力、ソウルの身体感覚が一つにまとまっていて、70年代中盤のヨーロッパ産グルーヴの輪郭が見えやすい。ニロヴィッチの作品を語るうえで、出発点の一つとして扱われることが多いのも納得できる内容だ。
トラックリスト
- A1 Hippocampus 3:00
- A2 Open Country 1:46
- A3 Crazy Enterprise 2:00
- A4 Soul Impressions 3:22
- A5 Lettre De Mer 2:18
- A6 Drug Song 3:14
- B1 Man Of Genius 3:07
- B2 Push Push 2:12
- B3 Black Swan Lake 2:12
- B4 Lady Day 2:39
- B5 To And Fro 1:57
- B6 Family Tree 2:09