Steve Hillage - Rainbow Dome Musick (1979)
Steve Hillage『Rainbow Dome Musick』(1979)レビュー
Steve Hillageの『Rainbow Dome Musick』は、1979年にUKのVirginから出たアンビエント作品だ。ギタリストとしてのHillageを知っていると、まず思い浮かぶのはGong以降の流麗なソロ作や、後年のSystem 7につながる電子音楽の流れだが、このアルバムはその中でもかなり特別な位置にある。ロックの演奏感を前面に出すのではなく、空間そのものを鳴らす方向へ振り切った作品で、当時の時代感覚からもかなり外れていた。
制作の背景
本作は、ロンドン・オリンピアで1979年4月21日から29日まで開催された「Festival for Mind-Body-Spirit」の会場内に設けられたドーム空間「Rainbow Dome」のために制作された。録音は同年1月、VirginのスタジオOmで行われている。クレジット上はSteve Hillageと長年のパートナーMiquette Giraudyの共同作業で、Hillageがリード/エレクトリック/グリッサンド・ギター、Fender Rhodes、ARPやMoogのシンセサイザーを担当し、Giraudyがシーケンサー、Fender Rhodes、ARP Omni、チベタン・ベルを受け持つ構成。ドラムもボーカルもなく、2曲・40分超のインストゥルメンタルでまとめられている。
音の印象
実際に聴くと、楽曲というより、長く伸びる音の層がゆっくり重なっていく感触が強い。ギターは前に出て主張するというより、シンセの持続音と同じ平面に置かれ、輪郭を保ったまま溶けていく。Hillageの特徴であるグリッサンド・ギターも、ここでは技巧の見せ場というより、音の軌跡を描くための道具として機能している。Fender Rhodesの粒立ちと、シーケンサーの反復が土台を作り、その上にベルや持続音が乗るため、時間の流れがかなり緩やかに感じられる。
派手な展開やフックは少ないが、音の配置が細かく変わるので、単調さよりも「空間の変化」を聴かせる作りになっている。ヘッドフォンで聴くと、左右の広がりや残響の深さが分かりやすい。ライブ録音の熱気とは別の、静かな集中が残る仕上がりだ。
1979年という時代との距離
1979年といえば、ロックの文脈ではパンク以降の緊張感が強い時期だが、この作品はその流れにほとんど乗っていない。むしろ、同時代の電子音楽やアンビエントの実験と近い場所にある。Brian Enoのアンビエント作品と比較されることが多いのも自然で、ロック・ギタリストがアンビエントの領域へ深く踏み込んだ例として見やすい。Hillageにとっても、Gongで培った長い持続音やスペーシーな感覚を、より純度高く電子音楽へ接続した作品として読める。
後年、The Orbのアレックス・パターソンがクラブのチルアウト・ルームでこの作品をかけていたところ、Hillage本人が居合わせたという話はよく知られている。その出会いが、90年代のアンビエント・ハウスやSystem 7へつながっていく流れも含めて、本作は単なる過去作ではなく、後の活動の起点としても見える。
アルバムとしての位置づけ
Steve Hillageのキャリアの中では、ギタリストとしての個性をそのまま電子音響へ持ち込んだ作品であり、ソロ作の中でもかなり異色だ。派手な代表曲で押すタイプではなく、アルバム全体で一つの環境を作る構成なので、曲単位で切り出すより、通して聴いたときに輪郭が見える。タイトル曲的なヒット曲がある作品ではないが、作品全体がそのままコンセプトになっている。
オリジナル盤はVirginのVR1で、クリア・ヴァイナルの限定プレスとして出た。初期盤には白地に赤文字のハイプステッカーが付いていたことも記録されている。収録内容の性格と合わせて、当時のVirginが持っていた実験性や、ライブラリー的な発想も感じさせる一枚だ。ジャケットやラベルの意匠も含め、1979年のUKプログレ周辺からアンビエントへの流れを読むうえで、外せないタイトルである。
トラックリスト
- A Garden Of Paradise 23:09
- B Four Ever Rainbow 20:30