Stevie Wonder - Signed Sealed & Delivered (1970)
Stevie Wonder『Signed, Sealed & Delivered』(1970)レビュー
1970年の『Signed, Sealed & Delivered』は、スティービー・ワンダーが10代の延長線上にいた“モータウンの若き歌い手”から、自分の手で作品を組み立てる作家へと踏み出した時期をはっきり示すアルバムである。アメリカ盤はTamlaのT 304。ソウルとファンクを軸にしながら、歌唱、演奏、作曲、プロデュースの各面で本人の関与が前面に出てくる一枚で、20歳のワンダーがどこへ向かおうとしていたかを読み取りやすい内容になっている。
作品の位置づけ
この時期のスティービー・ワンダーは、まだ“ヒットを歌う若手スター”の印象が強い一方で、すでに制作面での主導権を少しずつ広げていた。本作では全12曲中2曲を単独プロデュースし、3曲を共同プロデュース、さらに7曲の作詞・作曲に関わっている。モータウンの既成曲を歌うだけの存在から、自分のサウンドを作る側へ移る、その転換点にあるアルバムとして捉えやすい。
実際に聴くと、曲ごとの輪郭がかなりはっきりしている。リズム隊の推進力、ホーンの押し出し、コーラスの配置が明快で、楽曲のフックが早い段階で立ち上がる。ソウルの滑らかさとファンクの切れ味が同居していて、のちの70年代ワンダー作品に通じる設計図のような感触がある。
表題曲の存在感
アルバムの中心は、やはり「Signed, Sealed, Delivered I’m Yours」である。シリータ・ライトを含む共作者たちと書き上げた曲で、同年にワンダーは彼女と結婚している。曲そのものは、宣言のようなタイトル通りに、強い意志を持ったラブソングとして機能している。冒頭からリズムの跳ね方がわかりやすく、コーラスの応答も含めて、聴き手の耳に残る要素が多い。
この曲は全米シングルチャートで3位を記録しており、本作を代表する1曲として扱われている。のちに多くの歌手やバンドが取り上げるタイプの楽曲でもあり、ワンダーのメロディ作りの強さがそのまま伝わる。
「We Can Work It Out」とアルバムの幅
もう一つ目立つのが、ビートルズの「We Can Work It Out」のカバーである。原曲の輪郭を残しつつ、ソウルの文法に置き換える作りで、ワンダーが当時すでにカバー曲を自分の表現に引き寄せる力を持っていたことがわかる。こちらも全米13位を記録しており、シングルとしての強さも十分だった。
アルバム全体を通すと、タイトル曲のような押しの強い曲だけでなく、落ち着いたテンポの曲でも歌の細かな揺れや語尾の処理が耳に入る。若い声でありながら、すでにフレーズの置き方に余裕がある。単に勢いで走るだけでなく、歌の中に間を作る感覚が見えてくるのが面白い。
同時代の文脈
1970年前後のモータウン周辺では、個々のアーティストがより主体的に制作へ関わっていく流れが強まっていた。本作もその流れの中にある。スティービー・ワンダーはこのあとさらに作家性を深め、70年代半ばにはより統一感のあるアルバム群へ進んでいくが、その前段階として本作は重要である。
同時代のソウルと比べても、ここには“歌わせられている”感じが薄い。リズムの置き方、コーラスの使い方、曲の展開に本人の意思が入り込んでいて、単なるシングル集とは違うアルバムのまとまりがある。ファンクの要素も、後年のより重いサウンドに比べると軽快で、モータウンらしい推進力の中に収まっている。
演奏と制作の手触り
クレジット面では、本作にシリータ・ライトがバッキング・ボーカルとして参加している点も見逃せない。表題曲の共作者であり、のちに妻となる人物が制作の現場にもいることで、曲の性格と私生活が近い距離にある。こうした背景を知って聴くと、アルバムの中にある人間関係の密度が少し見えやすくなる。
録音の印象としては、音像が比較的明快で、ボーカルが前に出る。ベースとドラムが土台を作り、その上でホーンやコーラスが色を付ける構図がわかりやすい。70年代初頭のモータウン作品らしい整った作りながら、ワンダー本人のフレーズがその枠を少しずつ押し広げている感じがある。
評価とその後
当時の批評でも評価は高く、ロバート・クリストガウは本作を「男性ソウル・シンガーによる、これほど胸躍るLPは久しくなかった」と評し、後に1970年のベスト・ソウル・アルバムの一つに選んでいる。ローリング・ストーン誌のヴィンス・アレッティも、ワンダーの歌唱を強く称賛していた。こうした反応は、本作が単なるヒット作ではなく、表現の段階が一つ上がった作品として受け止められていたことを示している。
『Signed, Sealed & Delivered』は、派手にコンセプトを掲げるタイプのアルバムではないが、スティービー・ワンダーが自分の音楽を自分で形にし始めた瞬間が記録された一枚である。タイトル曲の強さ、ビートルズ曲の消化の仕方、そしてアルバム全体に漂う制作の主体性。その3つが、1970年の時点でのワンダーの現在地をはっきり示している。
トラックリスト
- A1 Never Had A Dream Come True 2:59
- A2 We Can Work It Out 3:05
- A3 Signed, Sealed, Delivered I'm Yours 2:46
- A4 Heaven Help Us All 2:59
- A5 You Can't Judge A Book By Its Cover 2:32
- A6 Sugar 2:51
- B1 Don't Wonder Why 4:45
- B2 Anything You Want Me To Do 2:24
- B3 I Can't Let My Heaven Walk Away 2:50
- B4 Joy (Takes Over Me) 2:25
- B5 I Gotta Have A Song 2:32
- B6 Something To Say 3:15