The Sugar Hill Gang - Sugarhill Gang (1980)
The Sugarhill Gang / Sugarhill Gang (1980)
1980年にUSのSugar Hill Recordsから登場した、The Sugarhill Gangのセルフタイトル作。デビュー作であり、ヒップホップ初期史を語るうえで外せない一枚である。一般には「最初期のヒップホップ・アルバム」として扱われることが多く、同時代のラップを一般のリスナーにまで広げた役割が大きい。
この時期のSugar Hill Recordsは、Sylvia RobinsonとJoe Robinson夫妻が主導したレーベルで、Grandmaster Flash & The Furious FiveやTreacherous Threeなど、初期ヒップホップの重要人物を世に出した存在でもある。本作もその流れの中にあり、DJ文化から生まれた新しい音楽を、アルバムという形でパッケージした早い例として見ておきたい作品だ。
アルバムの中身
収録曲はラップだけで押し切る構成ではなく、先行シングルとして知られる「Rapper's Delight」や「Sugar Hill Groove」を軸に、スロー〜ミッドテンポのソウル、ディスコ寄りのインストゥルメンタルが並ぶ。1980年当時、ラップだけのアルバムをそのまま市場に出す判断はまだ難しかった、という制作側の事情がそのまま盤面に反映されている。
聴感上は、後年のヒップホップ・アルバムにあるようなビートの切り替えやサンプリングの細かな構成とは違い、バンド演奏の延長にある素直なグルーヴが中心になる。ラップ曲と歌モノ/インスト曲が同居しているため、作品全体としては「ヒップホップのアルバム」というより、まだディスコとファンクの間にある過渡期の記録としても聴ける。
「Rapper's Delight」の存在感
このアルバムを代表するのは、やはり「Rapper's Delight」だ。Chicの「Good Times」のグルーヴを下敷きにしたこの曲は、当時まだ一般的でなかったサンプリング技術の代わりに、スタジオ・ミュージシャンが演奏で再現する方法で作られた。結果として、ラップを前面に出した楽曲がポップ市場で強い反応を得るきっかけになった。
チャート面でも、この曲はBillboard Hot 100で36位、R&Bチャートで4位を記録している。ラップ曲として初めてトップ40に入ったシングルとして知られ、ヒップホップがクラブの外へ広がる入口になった。アルバム自体もR&B/ヒップホップ・アルバムチャートで32位を記録しており、当時としてはかなり大きな到達点だった。
制作背景に残る初期ヒップホップらしさ
本作の背景には、いまの感覚では整理しきれない初期ヒップホップ特有の事情が多い。「Rapper's Delight」のラップの一部には、Big Bank Hankが当時マネージャーを務めていたGrandmaster Cazのリリック・ノートから借用したフレーズが含まれていたことが知られている。こうした経緯は、後年の制作倫理の基準から見ると問題を残すが、まだルールが固まっていなかった時代の空気もそのまま伝えている。
また、Chic側のNile RodgersとBernard Edwardsが著作権クレジットに入ることになった件も、この時代のヒット曲制作を象徴する出来事として扱われる。ヒップホップが既存のファンクやディスコのグルーヴをどう取り込んでいくか、その初期形がここにある。
盤の仕様とオリジナル盤について
このUS盤はゲートフォールド仕様で、レーベル表記は「Artist - The Sugar Hill Gang」、タイトルは「Sugar Hill Gang」となっている一方、ジャケット表記は「Sugarhill Gang」となっている。バックカバーには1979年、レーベル面には1980年のクレジットが入っており、初期プレスらしい表記の揺れも見られる。今回の盤はBestway Productionsのプレス違いにあたり、レーベルの細部やランアウトの刻印で識別できる。
レーベルはSugar Hill Records (SH-245)。Sugar Hill Recordsは、初期ヒップホップの普及に大きく関わった一方で、権利関係やロイヤルティをめぐる問題でも知られる。そうした背景まで含めると、このアルバムは単なるデビュー作ではなく、1980年前後のヒップホップ産業そのものを映した資料でもある。
同時代の文脈
同時代にはGrandmaster Flash & The Furious FiveやTreacherous Threeのように、ライブ感の強いMC/DJスタイルを発展させるグループがいた。本作はその中でも、ラップをレコードのフォーマットに落とし込み、広い層へ届けることに重点が置かれている。のちのRun-D.M.C.やPublic Enemyのような硬質なヒップホップとは方向が違うが、ジャンルがポップ・ミュージックの中に入っていく最初の接点として重要な位置を占める。
アルバム単体で見ると、統一感よりも当時の試行錯誤が先に立つ構成だが、そのぶん初期ヒップホップの輪郭がよく見える。ラップがまだ新しい表現として扱われていた時代の熱、ディスコの遺産、ファンクのリズム感、その3つが同じ盤面に並んでいる。
まとめ
The Sugarhill Gangの『Sugarhill Gang』は、ヒップホップが世界に知られていく過程の起点にある作品だ。代表曲「Rapper's Delight」の存在感は圧倒的で、アルバム全体はその周辺に初期のソウル/ディスコ感覚を置いた構成になっている。制作の経緯には複雑な点もあるが、1980年という時点でここまでラップを前面に出したアルバムが形になっていた事実は大きい。初期ヒップホップの記録として、今も資料性の高い一枚である。
トラックリスト
- A1 Here I Am 5:09
- A2 Rapper's Reprise (Jam-Jam) 7:40
- A3 Bad News 6:45
- B1 Sugar Hill Groove 9:52
- B2 Passion Play 5:10
- B3 Rapper's Delight 4:55