Curved Air - Phantasmagoria (1972)
Curved Air『Phantasmagoria』— 英国プログレの実験精神が濃く出た1972年作
Curved Airの『Phantasmagoria』は、1972年に発表された3作目のスタジオ・アルバムで、バンドの中でも評価の高い作品として知られている。中心にいるのは、ヴォーカルのSonja Kristinaを軸に、ヴァイオリンのDarryl WayやキーボードのFrancis Monkmanらが絡む編成で、ロックの形式に室内楽的な要素や実験的な処理を持ち込んだ点が、このバンドの大きな特徴だ。
Curved Airは1970年結成の英国バンドで、いわゆるプログレッシブ・ロック、アートロックの文脈で語られることが多い。『Phantasmagoria』は、その流れの中でも、演奏の緻密さと構成の変化、電子音の扱いが特に目立つ一枚になっている。全英アルバム・チャートでは最高20位を記録しており、バンドにとっては最後のチャート入り作品でもある。
アルバムの位置づけ
この作品は、初期Curved Airの方向性がまとまった到達点のような位置にある。前作までで見せていたメロディ志向と実験性が、ここではより整理された形で並び、曲ごとの性格もはっきりしている。バンド内の緊張感も伝わる時期だが、その分だけ演奏の集中度が高い印象を受ける。英国プログレの中でも、YesやGenesisのような大編成の技巧とは少し違い、室内的な編成感とソニア・クリスティーナの声の存在感が前に出る作りだ。
同時代の比較でいうと、ロックとクラシックの接点を探る姿勢は、Gentle Giantや、より実験寄りのKing Crimsonの一部作品とも通じる部分がある。ただしCurved Airは、ヴァイオリンを含む編成と女性ヴォーカルの比重によって、独自の輪郭を保っている。
収録曲と聴きどころ
本作の中では、A4「Melinda (More or Less)」が知られた楽曲として挙げやすい。楽曲単位で輪郭が立っており、アルバム全体の中でも印象に残りやすい。A4には「Also featuring Doris the Cheetah」という表記があり、作品資料としても少し目を引く。
制作面で特に重要なのは、A5「The Painter」の扱いだ。E.M.S.で録音され、Synthi 100シンセサイザーを使って構成されている。B2「Marie Antoinette」も同じくE.M.S.で処理され、Sonjaの声を分析・加工したテープ素材をPDP 8/LコンピュータとSynthi 100で編集したという記載がある。1972年という時代を考えると、かなり先進的な試みだとわかる。
実際に通して聴くと、歌ものとしての流れと、実験的な音響処理がきれいに分離しているわけではなく、同じアルバムの中で自然に行き来しているのがわかる。フォーク寄りの旋律、ヴァイオリンの線、キーボードの処理、声の立ち方が、それぞれの曲で少しずつ比重を変えている。派手なロック・リフで押し切る場面より、細かな音の重なりで形を作る場面が多い。
日本盤について
ここで扱うのは1972年の日本盤で、Warner Bros. RecordsのP-8226W。バックカバーには「©1972 Warner Bros. Records Inc./ Warner-Pioneer Corporation*IC A*」の表記がある。日本盤としては、当時の国内流通向けに整えられた1枚で、オリジナルの1972年作品として聴かれる内容に変わりはない。
Warner Bros.の1970年から73年にかけてのグリーン・ラベル期に当たる時代で、レーベル面のデザインも当時のUS Warner Bros.系の流れを反映している。コレクションの観点では、こうした初期の日本盤は、後年の再発盤とは別の時代感を持つ資料としても興味深い。
まとめ
『Phantasmagoria』は、Curved Airの演奏力、ソニア・クリスティーナの存在感、そして当時としてはかなり踏み込んだ電子音響の試みが同居した作品だ。英国プログレの中でも、華やかさだけでなく、細部の処理や構成の切り替えに耳が向きやすいアルバムである。1972年という年の空気を、ロックと実験音楽の接点としてそのまま閉じ込めた一枚、と言ってよさそうだ。
トラックリスト
- A1 Marie Antoinette 6:20
- A2 Melinda (More Or Less) 3:25
- A3 Not Quite The Same 3:44
- A4 Cheetah 3:33
- A5 Ultra-Vivaldi 2:22
- B1 Phantasmagoria 3:15
- B2 Whose Shoulder Are You Looking Over Anyway? 3:24
- B3 Over And Above 8:36
- B4 Once A Ghost Always A Ghost (Dedicated To Al & Bena) 4:25