The Cure - Pornography (1982)
The Cure『Pornography』
1982年5月、Fiction RecordsよりリリースされたThe Cureの通算4作目のスタジオ・アルバム。『Seventeen Seconds』(1980年)、『Faith』(1981年)に続く、いわゆる「暗黒三部作(Dark Trilogy)」の最終章にして最高到達点である。Robert Smith(ヴォーカル/ギター)、Simon Gallup(ベース)、Lol Tolhurst(ドラムス)の3人編成で挑み、ロンドンのRAK Studio Oneにて録音・ミックスされた。
制作背景・エピソード
当時のバンドは、過密なツアーによる極度の精神的疲弊、重度のうつ病、そして大量のアルコールとLSDの乱用により、完全な自己崩壊の危機に瀕していた。Robert Smithは後に「バンドが解散する前に、自らの絶望と怒りをすべて叩きつけた究極のファック・オフ・レコード(fuck-off record)を作る必要があった」と述懐している。プロデューサー兼エンジニアにはPhil Thornalleyを招聘。ドラムブースの防音仕切りをすべて撤去して広大なスタジオ空間の自然な反響をダイレクトに捉え、地鳴りのような原始的トライバル・ビートと、耳を切り裂くディストーション・ギター、テレビのニュース音声を断片的にコラージュした前衛的サウンドを構築した。
サウンドと聴きどころ
ロック史において最も冷酷で美しい絶望が濃密に凝縮された、ゴシック・ロック/ポストパンクの極北である。
アルバムは、「It doesn't matter if we all die(僕たち全員が死んだって構わない)」という衝撃的な呟きから始まる歴史的オープニング「One Hundred Years」で幕を開ける。軍隊の行進を思わせる無慈悲なビート、Simon Gallupの獰猛にうねる重低音ベース、そして過剰なフランジャーと歪みを帯びたギターが渦巻き、冷戦下の核戦争への恐怖と実存の虚無を叩きつける。先行シングルとなった「The Hanging Garden」(全英シングル・チャート第34位)は、呪術的なパーカッションと痙攣するようなリフが炸裂するゴス・アンセム。さらに、引き裂かれた精神の独白が胸を抉る「The Figurehead」、幻覚的な悪夢の中で一瞬の叙情美が閃く「A Strange Day」、冷徹なチェロの音色と重厚なオルガンが墓碑銘のように響き渡る名曲「Cold」、そしてテレビの音声サンプリングと狂気的なノイズが暴走するタイトル曲「Pornography」に至るまで、一切の救済を拒絶した純度の高い暗黒美が貫かれている。
時代の文脈
1982年のイギリスは、サッチャー政権下の不況と失業、フォークランド紛争の勃発など、暗く重苦しい空気が社会を覆っていた。同時代のニュー・ウェイヴ/シンセポップが快楽主義的なダンス・ビートへと向かう中、The Cureが放った本作は、あまりに苛烈で生々しい精神的破滅の記録として批評家たちを戦慄させた。しかしその妥協なき美学は若者たちの孤独と熱狂的に共鳴し、メディアの戸惑いをよそに全英アルバム・チャート第8位を記録。バンドにとって初のトップ10入りを果たした。
後世への影響
リリースに伴う過酷なツアーの最中、張り詰めた緊張が爆発してSimon Gallupが脱退し、バンドは一時的に完全崩壊へと至った(その後、Smithは『The Top』を経てポップ路線へと舵を切り劇的な再生を果たす)。しかし本作が打ち立てた重厚な音響構築と絶望の美学は、BauhausやSiouxsie and the Bansheesと並ぶゴシック・ロックの絶対的青写真となった。さらに後世のNine Inch Nails(Trent Reznor)、The Smashing Pumpkins、Deftones、Interpolといったオルタナティブ・ロックやインダストリアルの巨星たちに決定的な影響を与え、暗黒音楽の最高峰として永遠の輝きを放ち続けている。
トラックリスト
- A1 One Hundred Years 6:42
- A2 A Short Term Effect 4:25
- A3 The Hanging Garden 4:32
- A4 Siamese Twins 5:35
- B1 The Figurehead 6:15
- B2 A Strange Day 5:06
- B3 Cold 4:26
- B4 Pornography 6:28
動画プレイリスト
このアーティストについて
The Cure(ザ・キュアー)は、1976年にイングランド南東部ウェスト・サセックス州クローリーで結成されたイギリスのロック・バンドだ。フロントマンの...
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