The Cure - The Walk (1983)
The Cure「The Walk」— ポストパンクからシンセポップへ向かう転換点の米国盤ミニLP
The Cureの「The Walk」は、1983年にUSのSireから出た6曲入りのミニLPで、バンドが暗いポストパンクの文脈から、より軽快で機械的なリズムを持つポップへ寄っていく時期をまとめた一枚だ。ここに収められているのは、シングル「Let’s Go to Bed」と「The Walk」に関連する音源で、英国内でのシングル展開を米国向けに整理した内容になっている。のちに同年末、シングル「The Love Cats」も加えた『Japanese Whispers』が出るが、この盤はその前段階にある作品集として位置づけられる。
収録内容と作品の輪郭
収録曲は「The Upstairs Room」「Just One Kiss」「The Dream」「The Walk」「La Ment」「Let’s Go to Bed」の6曲。A面とB面で流れがはっきりしていて、前半はシングル周辺の楽曲を短くまとめ、後半で「The Walk」と「Let’s Go to Bed」という、この時期の方向転換を示す核となる曲が並ぶ構成だ。ジャケットには「6 cut mini LP」と表記され、当時の価格は5.99ドル。米国盤らしく、シングル盤の編集とは別に、アルバム未収録曲をまとめて手に取れる形になっている。
盤面やスリーブの作りも時代感がある。Sireのサンセット・ラベル、サイドオープンのスリーブ、背表紙の印字、ポリ袋入りの内袋など、80年代初頭のUS流通盤らしい仕様だ。プロモ盤の一部には金色のスタンプが入ったコピーもある。カタログ番号はラベルが「1-23928」、背表紙が「9 23928-1 b」。
「The Walk」の位置づけ
中心曲の「The Walk」は、この時期のThe Cureを語るうえで外しにくい一曲だ。シーケンサーとドラムマシンを前面に出したシンセポップ寄りの作りで、当時のバンドとしてはかなり明確に音の骨格が変わっている。UKシングルチャートでは最高12位を記録し、The Cureにとって初のトップ20入りとなった。暗い質感を強く持っていた初期から一歩離れ、リズムを前に出した楽曲が商業的にも反応を得た例として見やすい。
プロデュースはSteve Nye。Japanの『Tin Drum』での仕事が評価されて起用された流れがあり、実際「The Walk」にはニューウェーブ期の電子音の整理された鳴り方がある。AllMusicのStewart MasonはNew Orderの「Blue Monday」に近いと評しているが、無機質なビートの置き方や反復の感覚に、その比較が出るのもわかりやすい。とはいえThe Cureらしさは消えておらず、メロディの置き方やRobert Smithの歌い回しに、後年のポップな時期へつながる癖が残る。
転換期の背景
この時期のThe Cureは、1982年の『Pornography』の重苦しい空気のあとで、大きく舵を切っている。Simon Gallupが脱退し、Robert SmithとLol Tolhurstを軸にした再編の流れが強まり、Tolhurstはこのころからドラムからキーボードへ移っていく。「Let’s Go to Bed」についてSmithが、あの暗い側面から離れて「陽気なことをやりたかった」と語った話は、この時期のバンドの方向を端的に示す。録音時期も分かれていて、「Let’s Go to Bed」と「Just One Kiss」は1982年11月、「The Walk」「The Upstairs Room」「The Dream」「La Ment」は1983年4月に録音されている。
曲単位で見ると、「Let’s Go to Bed」は軽い電子リズムと明るいフックが前に出た曲で、全英44位。「The Walk」はそこからさらに一歩進み、より機械的で輪郭のくっきりした仕上がりになっている。「The Upstairs Room」「The Dream」「La Ment」も、重いギターで押すのではなく、キーボード、反復、空間の取り方で曲を組み立てる方向に寄っている。ダークなポストパンクからポップ路線へ移る途中の断面として、そのまま残っている音源群だ。
同時代の文脈
1983年前後の英国ニューウェーブやシンセポップでは、バンド編成のまま電子音を取り入れる動きが広がっていた。The Cureのこの時期の音作りは、その中でも特に、ポストパンク由来の陰影を残しながら、打ち込み的なリズムを自然に取り込んでいる点が目立つ。New OrderやJapanと並べて語られることが多いのも、そのあたりの共通点があるからだろう。実際、Steve Nyeの起用もJapanとの接点を思わせる。
同じ1983年12月には『Japanese Whispers』が出て、「The Love Cats」まで含めた別のまとまりが提示されるが、「The Walk」はその少し前に出た米国盤として、移行期の素材を先にパッケージした形になっている。The Cureにとっては、暗さ一辺倒ではないバンド像を作る途中の記録であり、のちのポップな成功へつながる入口の一つでもある。
まとめ
「The Walk」は、The Cureの初期と中期の境目に置くと見えやすい。ポストパンクの緊張感を完全には捨てず、シンセポップ、ニューウェーブ、電子ビートの要素を前に出した6曲入りの米国盤ミニLP。中でもタイトル曲は、バンド初のトップ20ヒットとして、以後のThe Cureが持つ“明るさと陰りの同居”を早い段階で示した重要曲だ。1983年のThe Cureを知るうえで、かなり輪郭のはっきりした一枚である。
トラックリスト
- A1 The Upstairs Room 3:28
- A2 Just One Kiss 7:18
- A3 The Dream 3:12
- B1 The Walk 3:30
- B2 La Ment 4:27
- B3 Let's Go To Bed 3:35