The Moody Blues - The Present (1983)
The Moody Blues『The Present』について
The Moody Bluesの『The Present』は、1983年に発表された通算11作目のスタジオ・アルバムである。イングランド・バーミンガム出身のこのバンドは、60年代後半からシンフォニックなロック・サウンドで存在感を強め、70年代を通して独自の位置を築いてきた。そうした流れの中で登場した本作は、80年代前半の制作環境を受け止めながら、バンドの持ち味をそのまま次の時代へ持ち込もうとした作品として見ていける。
日本盤はThresholdからのリリースで、型番はL25P 1156。ジャケット表記では背表紙に「The Presents」と印字されている点が確認できる。こうした細かな表記ゆれも含めて、当時の海外盤とは少し違った日本盤ならではの味わいがある。録音はStrawberry Fields Southで行われている。
80年代の空気をまとったムーディーズ
『The Present』を語るうえでまず目につくのは、前作『Long Distance Voyager』の流れを引きつつ、より80年代的な音像へ踏み込んでいる点である。シンセサイザーの比重が増し、バンドが得意としてきた壮大な構成感に、当時のポップ/AOR的な手触りが加わっている。ムーディー・ブルースらしい整ったコーラスやメロディの運びは残しながらも、録音の質感やアレンジには1983年という時代がはっきり出ている。
この時期のバンドは、70年代の大作志向とは少し違う形で活動しており、『The Present』はその変化を示す一枚でもある。全体を通して、初期のサイケデリックな実験性というよりは、整った楽曲を軸にしたロック・アルバムとしての性格が強い。The Moody Bluesの長いディスコグラフィーの中では、円熟と時代対応が同居した時期の記録として置ける。
収録曲とシングルの動き
本作からは複数のシングルが切られており、代表的なのは「Blue World」「Sitting at the Wheel」などである。特に「Blue World」は英国でトップ40入りし、「Sitting at the Wheel」は米国のBillboard Hot 100でヒットした。アルバム全体よりもシングルの存在感が前に出た形で、当時のラジオ・フォーマットとの相性がうかがえる。
曲単位で見ると、バンドの持つメロディの明快さと、80年代らしいリズム処理やキーボードの質感が同居している。Justin Haywardのギターとボーカル、John Lodgeの低音域の支え、Ray Thomasの管楽器やハーモニカなど、各メンバーの役割分担は明確で、The Moody Bluesというバンド名に期待される要素はしっかり残っている。
評価と位置づけ
本作は商業的には一定の成果を残しており、英国で15位、米国で26位を記録した。前作の勢いを受けた形でチャート上では健闘している一方、後年のバンド自身の回想では、制作や仕上がりに対して厳しい見方も示されている。Justin Haywardがのちに本作を「disastrous」と評したことはよく知られており、メンバー側の満足度が高かったとは言いがたい。
当時の批評も分かれた。ムーディー・ブルース特有の荘重さが、メロディや構成の弱さによって空回りしていると見る向きがあった一方で、後年に聴き直すと、80年代前半のメジャー・ロック・バンドとしてはきちんと形になっているという受け止め方もある。いずれにせよ、『The Present』は単なる過渡期の作品ではなく、バンドが自分たちの持ち味を時代に合わせて更新しようとした記録として読める。
The Moody Bluesの流れの中で
The Moody Bluesは、1960年代後半の大きな成功以降、シンフォニック・ロックやプログレッシブ・ロックの周辺で語られることが多いバンドである。GenesisやYesのような同時代の英国ロック・バンドと比べても、フルートや語り、メロディの流れを重視した独自のスタイルが際立っていた。『The Present』ではその系譜を直接なぞるというより、80年代のポップ・ロックの文脈に置き直している印象がある。
その意味で本作は、バンドの黄金期をそのまま再現したアルバムではない。だが、長く活動を続けてきたグループが、同じ名前のまま別の時代をどう歩いたかを示す材料にはなる。The Moody Bluesの作品群の中では、60年代の代表作や70年代の大作群に挟まれた位置ではあるものの、1983年のバンド像を知るうえで外せない一枚である。
まとめ
『The Present』は、The Moody Bluesが1983年時点でどのような音を鳴らしていたかをそのまま記録したアルバムである。シンセの存在感、整ったコーラス、シングル向けの楽曲構成、そしてバンド特有の抒情性。そのあたりが一枚の中で並んでいる。背表紙の表記ゆれや日本盤の仕様も含めて、80年代の洋楽レコードらしい具体的な手触りがある作品だ。
トラックリスト
- A1 Blue World 5:16
- A2 Meet Me Halfway 4:09
- A3 Sitting At The Wheel 5:35
- A4 Going Nowhere 5:27
- B1 Hole In The World 1:55
- B2 Under My Feet 4:48
- B3 It's Cold Outside Of Your Heart 4:23
- B4 Running Water 3:20
- B5 I Am 1:41
- B6 Sorry 4:56