Tim Maia - Tim Maia (1970)
Tim Maia 1970

Tim Maia - Tim Maia (1970)

Funk / Soul Latin Soul MPB

Tim Maia『Tim Maia』(1970年・ブラジル盤オリジナル)

Tim Maiaのデビュー・アルバム『Tim Maia』は、1970年にブラジルのPolydorから出た作品で、のちに「ブラジリアン・ソウルの父」と呼ばれる彼の出発点にあたる一枚だ。米国でソウルやR&Bに直接触れた経験を持つTim Maiaが、その感覚をブラジルの音楽に持ち込み、ファンク、ソウル、バイアォン、MPBの要素をつないでいく。ここで鳴っているのは、単なる輸入ソウルの模倣ではなく、ブラジルの都市音楽として組み直された黒人音楽の響きだ。

制作背景と録音の流れ

録音は1969年8月にサンパウロのScatena Studiosで始まり、同年12月にインストゥルメンタルのベーシック・トラックが固められた。その後、1970年5月までリオデジャネイロのCBDスタジオでヴォーカル、コーラス、オーケストラが重ねられている。プロデュースはJairo PiresとArnaldo Saccomani。アレンジ面ではWaltel BrancoとWaldir Arouca Barrosがストリングスを担当し、Isaac Hayesを思わせるロマンティックな管弦楽の処理が全体を包む。

演奏陣も重要だ。Cassianoのエレキギター、Carlinhosのピアノ/オルガン、Paulinho Bragaのドラム、Guilherme Francoのパーカッションなど、当時のブラジルのソウル・シーンを支えた面々が参加している。コーラスにはOs Diagonaisも加わり、曲によってはCassiano自身が作曲面でも深く関わる。「Padre Cícero」「Você Fingiu」「Eu Amo Você」「Primavera (Vai Chuva)」でクレジットされている点は、このアルバムが単独の歌手作品であると同時に、周辺のミュージシャンたちとの共同作業でもあったことを示している。

アルバムの中核を担う曲

冒頭の「Coroné Antônio Bento」は、João do ValeとLuiz Wanderleyの作品で、北東部のバイヨンをソウル/ファンクへ接続した曲として印象が強い。リズムの置き方がはっきりしていて、Tim Maiaの声が前に出る。ブラジル音楽の文脈では、ここに当時のMPBやボサノヴァとは違う、より肉体的なグルーヴが入ってくる。

アルバムの代表曲として語られるのが「Primavera (Vai Chuva)」だ。ラジオで繰り返し流れ、ヒットを引っ張った曲で、Tim Maiaの代名詞のひとつになった。「Azul Da Cor Do Mar」と並んで、この作品の認知を決定づけた楽曲でもある。Carlos Vergueiroがこの曲の歌唱を1970年屈指の名演として評価したという話も残る。実際、メロディの運びと歌の押し出しがはっきりしていて、アルバム全体の中でも耳に残る。

Tim Maiaにとっての位置づけ

このアルバムは、Tim Maiaが自分の方向性を明確に示した最初の作品だ。彼は10代の終わりに渡米し、米国のソウルやR&Bに触れたあと、1964年にブラジルへ強制送還された。帰国後はなかなか成功に結びつかなかったが、以前CBSで録音していたJairo PiresとのつながりがPolydor契約へつながり、さらにElis Reginaのアルバムで披露した「These Are the Songs」がレーベル内で注目されたことで、本作の制作が前倒しになったとされる。

その流れを踏まえると、『Tim Maia』は単なるデビュー盤ではなく、彼がブラジルでソウルを成立させるための最初の実践記録でもある。のちに彼が自分のレーベルSossegoを立ち上げる前段階としても重要だし、後続のブラジル・ソウルやファンクの土台にもなった。

ブラジル盤オリジナルの存在感

今回の盤はブラジル盤オリジナル、Polydor LPNG 44.053。ダークレッドのレーベルにシルバーホワイトでPolydorロゴとリムテキストが入る仕様で、1970年当時の空気をそのまま持つプレスだ。Polydorのブラジル展開の中でも、Tim Maiaという看板を最初に打ち出した一枚として見ておきたい。

同時代のブラジル音楽でいうと、MPBの洗練やTropicaliaの実験性とは少し別の場所に、この作品は立っている。ソウル、ファンク、バイアォン、オーケストラ編曲が同じアルバムの中で自然につながり、Tim Maiaの太い歌声がその中心にある。Rolling Stone Brasilの「ブラジル音楽史上最高のアルバム100」で25位に入っているのも、こうした位置づけをよく表している。

結果として『Tim Maia』は、デビュー盤でありながら完成度の高い自己紹介になっている。曲ごとの役割が明確で、ヒット曲もはっきりしていて、しかもその後のTim Maia像を先取りしている。ブラジルのソウルを語るときに外せない起点のひとつだ。

トラックリスト

  1. A1 Coroné Antônio Bento
  2. A2 Cristina
  3. A3 Jurema
  4. A4 Padre Cícero
  5. A5 Flamengo
  6. A6 Você Fingiu
  7. B1 Eu Amo Você
  8. B2 Primavera (Vai Chuva)
  9. B3 Risos
  10. B4 Azul Da Cor Do Mar
  11. B5 Cristina Nº 2
  12. B6 Tributo À Booker Pittman

動画プレイリスト

公開: 2026年10月

このアーティストについて

Tim Maia

Tim Maia

Tim Maia(チン・マイア、本名 Sebastião Rodrigues Maia)は、1942年9月28日にブラジル・リオデジャネイロのチジュカ地区で生まれた歌手、ギタリスト...

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