Wally Badarou - Back To Scales To-Night (1980)
Wally Badarou『Back To Scales To-Night』
ベナン共和国(旧ダホメ)にルーツを持つフランス・パリ出身のキーボーディスト/シンセサイザー奏者/作編曲家/プロデューサー、ウォリー・バダルー(Wally Badarou、本名:Waliou Jacques Daniel Isheola Badarou)が、1980年にフランスの名門Barclay傘下のレーベルRiviera LM Recording System(アーティスティック・ディレクターのレオ・ミシール[Léo Missir]が主宰、規格番号:ジャケット 91.065/ラベル 91 065)から発表したソロ・デビュー・アルバム。タイトルはジャケット表記が『Back To Scales To-Night』、レーベル面表記が『Back To Scales Tonight』となっている。のちのインストゥルメンタル中心の代表作とは異なり、バダルー自身の歌声とヴォーカル・アンサンブルを前面に出したキャリア唯一の作品だ。
制作背景・エピソード
医学の道から音楽へと転じたバダルーは、ベーシストのジュリアン・スコット(Julian Scott)の誘いでその兄ロビン・スコット(Robin Scott)のニュー・ウェイヴ/シンセ・ポップ・プロジェクト「M(エム)」の録音(パリのAquarium Studio)に参加し、1979年に世界的大ヒット(全米1位・全英2位)を記録したシングル「Pop Muzik」で鮮烈なシンセサイザー演奏を披露して注目を集めた。同年にはミリアム・マケバ(Miriam Makeba)のアルバム『Comme une symphonie d'amour』にも参加しており、その流れの中でレオ・ミシールのプロデュース統括のもと制作された初のソロ名義作が本作である。
録音とミキシングはパリおよびブローニュの4つのスタジオで行われた。B2「He Was A Rasta In London Town」とB3「She Turns Me On」は「Pop Muzik」と同じパリのAquarium Studio(エンジニア:ドミニク・ブラン=フランカール[Dominique Blanc-Francart])、B4「Lady Finger Blue (Instrumental)」はブローニュのPathé Marconi Studio、B5「Preachin'」はパリのBarclay Hoche Studios(エンジニア:ピエール・ドブレル[Pierre Dobler])、そしてA1〜A4およびB1はパリのFamily Sound Studiosで録音・ミックスされている(B1「London Town (Instrumental)」のミックスのみPathé Marconi Studio)。
参加ミュージシャンには、弟のイドリス・バダルー(Idriss Badarou:ベース、ヴォーカル)、カメルーン出身の名セッション・ベーシストであるヴィッキー・エディモ(Vicky Edimo:ベース)、ギブソン・ブラザーズ(Gibson Brothers)のパトリック・フランフォール(Patrick Francfort:ドラムス)、クロード・ヴァミュール(Claude Vamur:ドラムス)、エマニュエル・ロシュ(Emmanuel Roche:パーカッション)、セルジュ・ルー(Serge Roux:リリコン[ウインド・シンセサイザー])らが名を連ねる。さらにバダルー自身のリード・ヴォーカルに加えて、バーニー・リヨン(Bernie Lyon)、セリア・ラコンブ(Celia Lacombe)、モニク・ルシュール(Monique Lesueur)、シャー・コミサール(Sher Komisar、英語詞も担当)、フランスの名作詞家ボリス・バーグマン(Boris Bergman、作詞)が参加。機材面では、のちにバダルーの代名詞となるSequential Circuits Prophet-5をはじめ、Korg 800-DV、Korg Polyphonic Ensemble 1000、ARP Solina String Ensemble、Fender Rhodes、Yamaha CP-30などが駆使されている。
時代の文脈
本作が発表された1980年は、バダルーが国際的なセッション・ミュージシャン/プロデューサーへと飛躍する分岐点の年でもあった。本作と前後して、彼は英国のジャズ・ファンク・バンド、レヴェル42(Level 42:マーク・キング、フィル・グールドら)の初期作『The Early Tapes』『Level 42』にキーボード奏者・共作者・共同プロデューサーとして関わり、「5人目のメンバー」と呼ばれる存在になる。同時に、アイランド・レコード創設者クリス・ブラックウェル(Chris Blackwell)に見出されてバハマ・ナッソーの「コンパス・ポイント・オール・スターズ(Compass Point All Stars)」(スライ&ロビー、バリー・レイノルズ、マイキー・チャン、スティッキー・トンプソンとのハウス・バンド)の一員となり、グレイス・ジョーンズの『Warm Leatherette』(1980年)や『Nightclubbing』(1981年)、トム・トム・クラブ、ブラック・ウフル、トーキング・ヘッズ『Speaking in Tongues』などの重要作を支えていくことになる。本作はその本格的ブレイクの直前にフランスで吹き込まれたソロ作にあたる。
また、マッシヴ・アタック「Daydreaming」のサンプリング原曲「Mambo」や「Chief Inspector」を収めた『Echoes』(1984年)、および『Words of a Mountain』(1989年)といった後年のソロ代表作が全編インストゥルメンタル作品であるのに対し、本作はバダルー自身の歌唱とソウルフルなコーラス・ワークをフィーチャーした特異な位置づけのアルバムとなっている。
後世への評価と聴きどころ
発売当時はフランス国内のBarclay/Riviera LMからのリリースに限られ、長年にわたりCD化もされなかったため、オリジナルLPは世界中のレア・グルーヴ、モダン・ソウル/ブギー、バレアリック/コズミック・ディスコのDJやコレクターの間で入手困難な「幻の名盤」として語り継がれてきた。
うねるシンセ・ベースとタイトなビートで幕を開けるコズミック・ファンク/ブギーのタイトル曲A1「Back To Scales Tonight」や、爽快なモダン・ソウルA2「Sing Me Your Song」とA3「One Day, Won't Give It Away」、フェンダー・ローズとシンセが織りなすバレアリックなメロウ・グルーヴA4「Dream On The Sand」がA面を彩る。B面では、短いシンセ・インタールードB1「London Town (Instrumental)」に続き、直後のコンパス・ポイント時代を予見させるダビーなシンセ・レゲエ/ファンクB2「He Was A Rasta In London Town」、ダンサブルなブギー・ファンクB3「She Turns Me On」、リリコンとエレクトリック・ピアノが溶け合うジャズ・ファンク・インストゥルメンタルB4「Lady Finger Blue (Instrumental)」、そしてゴスペル・クワイア風のコーラスとシンセ・ファンクが高揚するB5「Preachin'」まで、1980年代初頭のフレンチ・ブギーとコンパス・ポイント・サウンド、ブリティッシュ・ジャズ・ファンクを繋ぐミッシング・リンクとして高く再評価されている。
トラックリスト
- A1 Back To Scales Tonight 4:17
- A2 Sing Me Your Song 3:57
- A3 One Day, Won't Give It Away 5:07
- A4 Dream On The Sand 4:42
- B1 London Town (Instrumental) 0:55
- B2 He Was A Rasta In London Town 4:21
- B3 She Turns Me On 4:25
- B4 Lady Finger Blue (Instrumental) 3:06
- B5 Preachin' 4:23