Anthony Phillips - Private Parts And Pieces (1978)
Anthony Phillips『Private Parts And Pieces』について
Anthony Phillipsの『Private Parts And Pieces』は、1978年に登場したソロ作品で、Genesisの初期メンバーとして知られる彼の活動を、その後の個人作業へとつなぐ重要な一枚だ。タイトルからして大作志向のプログレ作品というより、より私的で、手元のスケッチブックを開くような性格が前面に出ている。実際、Anthony PhillipsはGenesis脱退後にソロ制作を進め、作曲家、マルチ奏者、録音技師としても活動を広げていくが、このアルバムはそうした歩みの中でも、作家としての輪郭がはっきり見えやすい作品として位置づけられる。
オリジナルは英国圏で知られる作品だが、このUS盤はPVC Recordsからのリリースで、PVC 7905のカタログ番号を持つ。PVC Recordsは1978年にPassport Recordsのサブレーベルとして始まったニュージャージー拠点のレーベルで、当時のUS市場向けに作品を展開していた。この盤も、1978年という時点でのAnthony Phillips像を、アメリカ盤として伝える一枚になっている。
作品の輪郭
この作品でまず目につくのは、Anthony Phillipsらしい細かな構成と、演奏の組み立て方だ。Genesis時代から彼は、ギターのフレーズを単なる伴奏にせず、和声や旋律の流れの中に組み込むタイプだったが、ソロではその傾向がさらに前に出る。派手な歌唱や大仰な展開で押すというより、曲ごとの質感や楽器の重なりで聴かせる作り。プログレッシブ・ロックの中でも、シンフォニックな大編成感より、室内楽的な見通しのよさが印象に残る。
1970年代後半のプログレは、すでに大作路線だけでなく、内省的なソロ作品やアコースティック寄りの作品が増えていた時期でもある。その中でAnthony Phillipsは、YesやGenesisのような大きな構築性を持つバンドの出身者でありながら、個人の手触りを残した音作りに向かっていく。『Private Parts And Pieces』という題名も、その方向性をそのまま示しているように見える。
聴きどころとしての1枚
アルバム全体を通して耳に残るのは、楽曲の「完成品」よりも、制作の過程そのものが見えるような感覚だ。テーマが少しずつ姿を変え、短い断片がつながっていく場面が多く、Anthony Phillipsの作曲家としての思考がそのまま音になっている印象が強い。ギターを軸にしつつ、鍵盤や多重録音の扱いも含めて、ひとりで組み上げていく作業の密度がある。
また、彼のソロ作品に通じる特徴として、音数を詰め込みすぎないところも挙げられる。プログレという言葉から連想されやすい技巧の誇示より、旋律が自然に流れることを優先しているため、聴き手は曲の構造を追いやすい。Genesisのようなバンドの文脈で聴くと、フィル・コリンズ加入後の方向性とはまた別の、初期メンバーとしてのAnthony Phillipsの感覚が立ち上がる。
注目したいポイント
この作品で注目したいのは、Anthony Phillipsが「ソロ・ギタリスト」としてだけではなく、「曲を組み立てる人」として前に出ている点だ。フレーズの美しさだけでなく、曲間のつながりや展開の置き方に、作曲家としての整理された視点がある。単独で聴いても成立するが、Genesis初期から続く彼の音楽的な流れを踏まえると、より意味が見えやすい作品でもある。
もうひとつは、同時代の英国プログレの中での立ち位置だ。大編成のサウンドを追うバンド群とは少し距離を取りつつ、アコースティック寄りの繊細な運びや、楽曲断片の積み重ねで聴かせる点に、Anthony Phillipsならではの個性がある。派手な代表曲で押し切るタイプではないが、アルバム単位で聴くと、彼のその後のソロ活動につながる基礎がよく見えてくる。
US盤としての位置づけ
このPVC盤は1978年当時のUSリリースとして、Anthony Phillipsの作品をアメリカ市場に届けた版になる。PVC Recordsはその後長く続いたレーベルではないが、当時のUSプログレ/ロックの流通の中では、こうした作品を手に取りやすくする役割を担っていた。盤としては、オリジナル期の空気をそのまま持つ初出年のリリースであり、Anthony Phillipsのソロ初期を知るうえでの基本的な一枚と言える。
『Private Parts And Pieces』は、バンドの中心人物だったミュージシャンが、個人の制作に向かったときに何を残すのか、その答えのひとつとして聴ける作品だ。Genesisの大きな歴史の中で見ても、Anthony Phillips個人のキャリアの中で見ても、静かに重要な位置を占めるアルバムである。
トラックリスト
- Home Side
- A1 Beauty And The Beast 4:09
- A2 Field Of Eternity 5:11
- A3 Tibetan Yak-Music 6:10
- A4 Lullaby - Old Father Time 1:15
- A5 Harmonium In The Dust (Or Harmonious Stratosphere) 2:31
- A6 Tregenna Afternoons 7:50
- Away Side
- B1 Reaper 6:12
- B2 Autumnal 6:00
- B3 Flamingo 11:08
- B4 Seven Long Years 2:56
動画
- Anthony Phillips - Private Parts & Pieces I - Beauty and the Beast
- Field of Eternity
- Tibetan Yak Music
- Flamingo
- A Catch at the Tables