Bobby Womack - Womagic (1986)
Bobby Womack『Womagic』(1986) レビュー
Bobby Womackの『Womagic』は、1986年にMCA Recordsからリリースされた後期の重要作である。ソウル/ファンクの文脈に置かれる作品だが、ここでは派手な装飾よりも、歌そのものの力と、南部録音らしい骨太な手触りが前に出る。Bobby Womackはシンガー、ギタリスト、ソングライターとして長く活動してきた人物で、60年代のThe Valentinosを経てソロで存在感を確立した。『Womagic』は、そのキャリアの中でも、熟練した表現力がそのまま作品の輪郭になっている一枚である。
作品の位置づけ
1986年時点のBobby Womackは、すでに長いキャリアを持つベテランだった。若い時期の勢いだけで押す段階ではなく、歌い回し、言葉の置き方、間の取り方で曲を運ぶ段階に入っている。『Womagic』はその成熟がはっきり出たアルバムで、同時代のR&Bのようにドラム・マシンやシンセを前面に出すタイプではなく、演奏と歌の密度で聴かせる作りになっている。80年代中盤のソウル作品の中では、より土の匂いが残る側の記録として捉えやすい。
制作はメンフィスの3 Alarm Recording Studioで行われ、Chips Momanとの関係もこの作品の重要な要素として知られている。Momanは南部ソウルやカントリー寄りの感触を持つ録音で知られる人物で、ここでもその持ち味が作品の輪郭に関わっている。Bobby Womackのざらついた声質と、過剰に磨き上げない演奏の組み合わせが、このアルバムの核になっている。
サウンドの印象
実際に聴くと、まず耳に残るのは声の表情である。Bobby Womackは力任せに押し切るタイプではなく、少し崩したフレーズの中に感情を入れてくる。『Womagic』でもその歌い方がよく機能していて、リズムの隙間に言葉を落とすような場面が多い。ギターも過不足なく入り、ボーカルの邪魔をしない位置で曲を支えている。
音の作りは、華やかな80年代R&Bよりも、バンドの生々しさが残る方向である。ベースとドラムの推進力がありつつ、全体は落ち着いた温度で進む。派手な展開で引っ張るというより、同じテンションを保ちながら細かなニュアンスで聴かせる構成。こうした作りは、同時代の洗練された都会派ソウルとは少し距離があり、むしろ古典的なサザン・ソウルの流れを引き継ぐものとして聴こえる。
評価と反応
当時の反応は比較的好意的だった。業界誌では制作クレジットにChips MomanとBobby Womackの名前が並び、歌を軸にしたソウル作品として扱われている。The Washington Postでも1987年に収録曲「When the Weekend Comes」が高く評価され、このアルバムをWomackのキャリアを代表する一枚として見る視点が示されている。大ヒット作というより、内容面で評価された作品という位置づけである。
チャート面では、アルバム自体はBillboard Top R&B Albumsで最高68位にとどまった。一方で、同時期のシングル「I Wanna Make Love to You」はR&Bチャートで反応を得ている。数字だけを見ると大規模な成功ではないが、1980年代後半のBobby Womackの存在感を保った作品としては重要である。
同時代とのつながり
『Womagic』を同時代のソウルと比べると、いわゆるニュー・ジャック・スウィングのような新しい流れよりも、昔ながらのソウル・シンガーの語り口を優先している点が目立つ。ここでのBobby Womackは、流行の音を追うより、自分の歌の重心を守っている。Otis Redding以後の南部ソウル、あるいはSam Cookeから続く歌の説得力を、80年代の録音環境に持ち込んだような作品と見ることもできる。
また、のちに「When the Weekend Comes」が別作で再録されていることからも、この時期の楽曲が本人にとって無視できない存在だったことがうかがえる。収録曲の中でもこの曲は、アルバムの中核にある一曲として扱われやすい。
US盤について
今回のUS盤はMCA Recordsの1986年リリースで、ラベルには「℗ 1986 MCA Records, Inc.」の表記がある。MCAの80年代中盤のUS盤らしく、黒ラベル期や初期のタンラベル期とは異なる時代のプレスで、ラベル表記も「Side 1」「Side 2」とシンプルである。なお、盤面のランアウトには「◈-P-◈」の刻印があるが、判読しにくい箇所もある。作品内容そのものは、こうしたUSオリジナル期の空気をそのまま持つ。
まとめ
『Womagic』は、Bobby Womackの歌い手としての経験値が、そのままアルバムの説得力になっている作品である。大きな仕掛けで聴かせるのではなく、声、間、演奏の温度で押していく構成。1986年という時代の中ではやや古風にも映るが、その古さがこの人の持ち味と重なっている。派手な成功よりも、ベテランの仕事としての手応えが残る一枚である。
トラックリスト
- A1 (I Wanna) Make Love To You 4:22
- A2 When The Weekend Comes 5:33
- A3 The Things We Do (When We're Lonely) 3:51
- A4 I Can't Stay Mad 4:13
- B1 Can'tcha Hear The Children Calling 4:34
- B2 Outside Myself 3:17
- B3 I Ain't Got To Love Nobody Else 3:20
- B4 More Than Love 3:25
- B5 It Ain't Me 4:45