Erykah Badu - Worldwide Underground (2003)
Erykah Badu『Worldwide Underground』について
『Worldwide Underground』は、Erykah Baduが2003年にMotownから発表した3作目のスタジオ・アルバム。前作『Mama’s Gun』から3年を経て届いた作品で、バドゥのキャリアの中でも、スタジオ作品としてのまとまりと、ライヴの空気感が強く結びついた一枚として知られている。Neo-Soulの中心人物として語られることの多い彼女だが、このアルバムではその枠だけでは収まりきらない、ジャズ、ファンク、ヒップホップの感触が曲ごとに入り込んでいる。
制作背景と作品の位置づけ
本作の背景には、『Mama’s Gun』後のライターズ・ブロックと、その後に行われた「Frustrated Artist Tour」の体験がある。ブックレットにも、このツアーに触発されたことが記されている。つまり、閉じたスタジオの中だけで作られた作品というより、移動しながら演奏し、観客の反応を受け取りながら形になったアルバムという性格が強い。制作面では、Erykah Badu本人に加えてJames Poyser、Rashad Smith、RC Williamsらを軸にしたFreakquencyが関わり、複数のスタジオで録音されている。Electric Lady Studios、Right Track、Sound On Sound、Luminousなど、ニューヨーク、フィラデルフィア、ダラス、バハマをまたぐ制作環境も、この作品の移動感につながっている。
バドゥにとっては、デビュー作『Baduizm』、前作『Mama’s Gun』に続く重要な位置づけのアルバム。ソウル・シンガーとしての輪郭を保ちながら、曲の長さや展開、ゲストの配置、ラップと歌の往復によって、より現場寄りのグルーヴを前に出している。
収録曲の流れと聴きどころ
全体は曲間のつながりが意識されていて、1曲ごとの独立性よりも、アルバム全体でひとつのセッションを聴いているような流れがある。10分を超える「I Want You」、9分近い「Bump It」など、長尺の楽曲が並ぶ構成も特徴的だ。テンポを急がず、ベース、ドラム、キーボードの反復を土台にしながら、声やリズムの細かい揺れで引っ張っていく作り。
「Danger」はシングルとしても重要で、2004年のグラミー賞では最優秀アーバン/オルタナティヴ・パフォーマンスと最優秀R&Bソングにノミネートされた。「Love of My Life (An Ode to Hip-Hop)」はCommonを迎えた楽曲で、もともとは映画『Brown Sugar』のサウンドトラック曲として発表され、その後このアルバムに収録された。2003年のグラミー賞で最優秀R&Bソングを受賞している。ヒップホップとR&Bの接点を、そのまま作品の中心に置いた曲で、アルバム全体の文脈をよく示す1曲でもある。
ほかにも「Back in the Day (Puff)」のように、過去を振り返る視点を持つ曲があり、ゲストとしてQueen Latifah、Angie Stone、Bahamadia、Dead Prez、Lenny Kravitz、Roy Hargroveらが参加している。いずれも単なる客演というより、楽曲の質感を広げる役割。特にジャズ系の演奏家やラップ勢が同じ盤面に並ぶことで、このアルバムのジャンル横断的な性格がはっきりする。
音の質感と作品の印象
録音クレジットを見ると、Electric LadyやCompass Point、Luminousなど、空気の違う場所が混在している。そのせいか、音像も一定の整い方だけで進まず、少しラフで、手触りの残る場面が多い。きっちり組み上げたスタジオ作というより、演奏の呼吸を残したまま編集された印象がある。実際に聴くと、リズム隊の粘り、コーラスの置き方、バドゥの声の間合いが前に出てきて、曲の長さが負担になりにくい構成になっている。
AllMusicが「週末のジャム・セッションのようだ」と評したのも、この作品の性格をよく捉えている。きっちり整列したコンセプト・アルバムではなく、演奏と会話の延長にあるようなアルバム。そこに、バドゥ特有の低く落ち着いたボーカルが乗ることで、単なる即興感だけでは終わらないまとまりが生まれている。
評価と当時の反応
発売週には約14万3千枚を売り上げ、Billboard 200で初登場3位、Top R&B/Hip-Hop Albumsで最高2位を記録した。2003年10月にはゴールド認定を受けており、商業的にも一定の存在感を示した作品。批評面では評価が割れ、Metacriticでは71点、Rolling Stoneは辛口の評価だった。一方で、グラミー賞ではアルバム、楽曲、ボーカルの各部門でノミネートされている。受け止め方に幅があったアルバムだが、2000年代前半のNeo-SoulやコンテンポラリーR&Bの中で、ヒップホップ的な感覚と生演奏の感触を強く結びつけた作品として記憶されている。
まとめ
『Worldwide Underground』は、Erykah Baduの作品の中でも、ライヴの熱気とスタジオ制作が近い距離で共存しているアルバム。Motownからの2003年作として、Neo-Soulの枠組みを保ちながら、長尺の展開、客演の配置、ジャム感のある構成で独自の輪郭を作っている。代表曲「Love of My Life (An Ode to Hip-Hop)」や「Danger」を含みつつ、アルバム全体では“曲を並べる”というより“場を作る”感覚が前に出る一枚。バドゥのディスコグラフィーの中でも、制作背景と音の流れがよく結びついた作品として押さえておきたい。
トラックリスト
- A1 Intro - World Keeps Turnin' 1:39
- A2 Bump It 8:49
- A3 Back In The Day (Puff) 4:46
- A4 I Want You 10:53
- B1 Woo 3:14
- B2 The Grind 2:49
- B3 Danger 5:49
- B4 Think Twice 3:02
- Bonus Track
- B5 Love Of My Life Worldwide 5:25
- B6 Outro - World Keeps Turnin' 4:01