Maxwell - Maxwell's Urban Hang Suite (1996)
Maxwell『Maxwell's Urban Hang Suite』レビュー
Maxwellのデビュー・アルバム『Maxwell's Urban Hang Suite』は、1996年にColumbiaから登場した作品で、90年代R&Bの流れの中でもかなり印象の残る一枚だ。ブルックリン出身のシンガー/ソングライター/マルチ奏者として知られるMaxwellが、若い世代の感覚で70年代ソウルの質感を引き寄せたアルバムで、後にネオ・ソウルと呼ばれる潮流の重要な起点のひとつとして扱われている。
タイトル通り、全体は一続きの組曲のような構成になっていて、出会いから関係の進展、そしてプロポーズへ向かう流れが描かれる。曲単体で切り離して聴くというより、アルバム全体でひとつの物語を追う作り。R&Bのアルバムとしては、かなりコンセプト色の強い設計である。
制作背景と位置づけ
録音は1994年から1995年にかけて、ニューヨークのエレクトリック・レディ・スタジオなどで進められ、1995年3月には完成していたとされる。その後、Columbia社内の体制変化や、当時主流だったヒップホップ寄りのR&Bとの相性をめぐる判断で、しばらく発売が見送られた。結果として1996年4月2日に世へ出るまで時間がかかったが、その待機期間を経ても内容は古びていない。
Maxwell本人に加えてPeter Mokran、そしてSade作品でも知られるStuart Matthewmanが制作を担っている点も大きい。さらに、Leon Wareが「Sumthin' Sumthin'」で共作として関わり、Wah Wah Watsonも参加している。70年代ソウルの流れを知る耳には、音の組み立てや間の取り方にその系譜がはっきり見える。
聴きどころ
このアルバムでまず目を引くのは、歌の置き方と編成のバランスだ。打ち込みの輪郭はあるが、そこに生楽器の温度がきちんと残っている。ベース、ギター、キーボード、コーラスの重なりが、過度に前へ出ず、しかし埋もれもしない。耳に入る情報量は多いのに、全体の手触りは整っている。
代表曲としては「Ascension (Don't Ever Wonder)」がまず挙がる。シングルとして広く届いた曲で、Billboard R&Bチャートで8位、Hot 100で36位を記録した。アルバムの中では、華やかさと軽さを持ちながらも、浮ついた印象に寄りすぎないのが特徴だ。続く「...Til The Cops Come Knockin'」も含め、Maxwellのファルセットはこの時点ですでに完成度が高い。高音を無理に押し出すのではなく、滑らかに流していく歌い方が、曲の空気を保っている。
終盤の「Suitelady (The Proposal Jam)」は、この作品のクライマックスに置かれた曲で、さらにその中の「The Suite Theme」には12分06秒地点に隠しトラックが仕込まれている。アルバム全体の物語を締める仕掛けとして、当時のCD時代らしい構成でもある。こうした細部が、単なるR&Bアルバム以上のまとまりを生んでいる。
当時の文脈
1996年のR&Bは、よりヒップホップ色の強いサウンドが大きく広がっていた時期でもある。その中で本作は、マーヴィン・ゲイやプリンスを思わせる感触を持ちながら、同時代の感覚をしっかり保っていた。のちにD'Angelo『Brown Sugar』、Erykah Badu『Baduizm』と並べて語られることが多いのも、その流れの中で自然なことだろう。
売れ行きは静かな立ち上がりだったが、アルバムは最終的にBillboard 200で最高37位、R&B/ヒップホップ・アルバム・チャートで最高8位、全英39位を記録し、RIAAのダブル・プラチナ認定を受けている。1997年のグラミー賞では最優秀R&Bアルバムにノミネートされ、Soul Train Awardsでも評価を得た。批評面でも1996年の年間ベストに挙げる媒体が多く、発売後にじわじわと存在感を強めていった作品である。
このUS盤について
今回のUS盤は1996年のオリジナル期のリリースで、Columbiaのカタログ番号はC2 66434。見開きジャケットではなく、歌詞とクレジットを収めた印刷インナーが2枚付属する仕様になっている。レコードとしては、アルバムの流れをそのまま追いやすい作りで、曲間のつながりや終盤の組曲的な構成も楽しみやすい。
『Maxwell's Urban Hang Suite』は、Maxwellにとっての出発点であり、同時に90年代後半のR&Bの方向性を示した作品でもある。派手な話題性よりも、曲順、音色、歌の運びを積み上げていくタイプのアルバムで、聴き終えたあとに残るのは、派手な一発ではなく、全体の流れそのものだ。
トラックリスト
- A1 The Urban Theme 2:42
- A2 Welcome 5:18
- A3 Sumthin' Sumthin' 4:18
- B1 Ascension (Don't Ever Wonder) 5:46
- B2 Dancewitme 6:15
- B3 ...Til The Cops Come Knockin' 6:56
- C1 Whenever Wherever Whatever 3:45
- C2 Lonely's The Only Company (I & II) 6:22
- C3 Reunion 4:53
- D1 Suitelady (The Proposal Jam) 4:48
- D2 The Suite Theme 13:47
動画プレイリスト
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The Urban Theme (Remastered 2021)
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Welcome (Remastered 2021)
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Sumthin' Sumthin' (Remastered 2021)
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Ascension (Don't Ever Wonder) (Remastered 2021)
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Dancewitme (Remastered 2021)
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... Til the Cops Come Knockin' (Remastered 2021)
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Whenever Wherever Whatever (Remastered 2021)
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Lonely's the Only Company (I & II) (Remastered 2021)
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Reunion (Remastered 2021)
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Suitelady (The Proposal Jam) (Remastered 2021)
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The Suite Theme (Remastered 2021)