Eugene McDaniels - Outlaw (1970)
Eugene McDaniels『Outlaw』(1970年・Atlantic)
Eugene McDanielsの『Outlaw』は、1970年にAtlanticから出たアルバムで、彼がそれまでのGene McDaniels名義から、フルネームのEugene McDanielsへと切り替えた初期の作品として位置づけられる。かつてはポップ・シンガーとしてヒットを持ち、その後に作家性の強い表現へ寄っていった人物だが、この盤ではその変化がかなりはっきり出ている。作品全体に、歌ものの分かりやすさと、当時のアメリカ社会を直視する語り口が同居している。
作品の背景
McDanielsは1960年代前半に「A Hundred Pounds of Clay」「Tower of Strength」などのヒットで知られたが、時代が進むにつれて表舞台でのポップ・スター像は薄れていった。その後、ヨーロッパに移って作曲活動に軸足を置き、社会批判を含む曲作りを深めていく。『Outlaw』は、その流れの中でAtlanticと結んだ重要な一枚で、政治や都市の貧困、人種問題に正面から触れた内容になっている。
制作面では、Joel DornがMcDanielsの歌を聴いて惚れ込んだことがきっかけとされる。録音はニューヨークのRegent Sound Studiosで行われ、音楽監督はWilliam S. Fischer。ベースにRon Carter、ドラムにRay Lucas、ギターにHugh McCrackenとEric Weissbergが参加しており、ジャズ寄りのリズム感に、フォークやカントリー・ロックの要素を持つギターが重なる編成になっている。Atlanticの重心がソウル、ジャズ、ロックの交差点にあった時期らしい人選で、単純なシンガーソングライター盤とは少し違う空気を持つ。
内容の輪郭
このアルバムでまず目に入るのは、曲名そのものがメッセージを背負っている点だ。「Silent Majority」「Welfare City」「Love Letter to America」といったタイトルには、ニクソン政権下の空気や都市の格差、暴力への視線がはっきり出ている。McDaniels自身が、右派的な空気に対して“アウトロー”として立つ構図が置かれていて、単なる恋愛歌集では終わらない。
その一方で、音楽の作りは硬すぎない。ジャズ・ミュージシャンのリズムの上に、ロック寄りのギターやソウルの歌い回しが乗るため、言葉の重さに対して演奏は比較的流動的に進む。特に、McDanielsの声が前に出る場面では、説教臭さよりも、語りかけるような調子が残る。実際に聴くと、メッセージの強さと演奏の柔らかさがぶつかるというより、互いを支え合う作りに近い。
収録曲と関連エピソード
「Reverend Lee」は本作の中でも後年まで知られる曲で、同じ1970年にRoberta Flackが『Chapter Two』で取り上げている。McDanielsの曲が同時代のシンガーに選ばれている点は、作家としての評価を示すものとして見やすい。さらに、前年に登録された「Compared to What」が反戦・社会批判の曲として知られ、Les McCannやRoberta Flackにカバーされていることも、この時期のMcDanielsの作家性を理解する手がかりになる。
制作現場の空気について、Joel Dornはこのセッションを「重かった。お茶会じゃない、悪党と山賊の集まりだった」と回想している。言い回しは強いが、音だけを追っても、整いすぎていない緊張感は確かにある。洗練されたAOR的なまとまりではなく、少し荒さを残したまま進む感触が、作品の内容と噛み合っている。
同時代の文脈
1970年前後のAtlanticは、ソウル、ジャズ、ロックの接点を多く抱えていた時期で、McDanielsのようにジャンルの境目をまたぐ表現者を受け止める土壌があった。『Outlaw』は、同時代の社会派ソウルや、メッセージ性の強いシンガーソングライター作品とも並べて語れるが、McDanielsの場合は黒人音楽の側から政治や社会を見ている点がはっきりしている。のちに『Headless Heroes of the Apocalypse』へつながる流れを考えると、この盤はその出発点として見やすい。
商業的な大ヒット作ではないが、後年の再評価で存在感を増したタイプの作品でもある。特に、のちのヒップホップ世代がMcDanielsの作品をサンプリング・ソースとして見直していく流れを思うと、この時期の言葉と演奏の組み合わせは、時代の外側へ長く残る素材になっている。
USオリジナル盤について
この盤は1970年のUSオリジナル、AtlanticのSD 8259。Monarch Record Mfg. Co.によるプレスで、レーベル面のマトリクスには「MO」表記が入るヴァリエーション。Atlanticの70年代初頭の一枚として、当時のレーベルが持っていたジャズ、ソウル、ロックの接続点をそのまま映したような内容になっている。
『Outlaw』は、ポップ・シンガーだったMcDanielsが、作家として何を歌う人なのかを明確に示したアルバム。メロディだけで押すのではなく、言葉、編成、空気感まで含めて組み立てた一枚として、1970年という時代の輪郭がそのまま入っている。
トラックリスト
- A1 Outlaw 5:00
- A2 Sagittarius Red 3:03
- A3 Welfare City 2:52
- A4 Silent Majority 4:10
- A5 Love Letter To America 3:57
- B1 Unspoken Dreams Of Light 6:40
- B2 Cherrystones 3:08
- B3 Reverend Lee 6:31
- B4 Black Boy 2:59