MFSB - Mysteries Of The World (1980)
MFSB『Mysteries Of The World』について
MFSBの『Mysteries Of The World』は、1980年にUSのTSOPから出たアルバムで、MFSB名義のスタジオ作としては後期にあたる1枚です。MFSBは「Mother, Father, Sister, Brother」の略で、フィラデルフィア・インターナショナル周辺を支えたハウス・バンドとして知られたグループ。この時期になると、70年代前半のフィリー・ソウルの土台を保ちながら、シンセサイザーやより硬質なリズムを取り入れた音作りへと移っていく流れが見えます。
本作はSigma Sound Studiosで録音され、MasterはFrankford/Wayne Recording Labs。プロデュースはGamble/Huff Productions名義で、フィラデルフィア・ソウルの中核にいた制作陣の文脈がそのまま残っています。レーベルのTSOPも、MFSBの代表曲「TSOP (The Sound of Philadelphia)」に由来する名前で、PIRの姉妹レーベルとして再始動した時期のリリース。作品自体が、その土地の音の歴史と強く結びついた存在です。
作品の輪郭
全8曲で、インストゥルメンタル中心の構成。アルバムの核になっているのは、デクスター・ワンゼルの存在です。彼はキーボード奏者としてだけでなく、シンセサイザーの扱いでも知られ、本作の表題曲では作曲とプロデュースを担当しています。制作時には、リズム隊とストリングス、ハープ、フルートを先に録り、その上にOberheimの4ボイス、Polymoog、ARP 2600を重ねたという記録が残っています。70年代フィリー・ソウルのストリングスの厚みと、80年代らしい電子音が同じフレームに入っている構図です。
この組み合わせは、MFSBの従来の“オーケストラ・ソウル”をそのままなぞるものではなく、ディスコ以後の空気を持ち込んだものとして聞こえます。ホーン・セクションの推進力は残しつつ、シンセの音色が前に出る場面があり、アレンジの重心が少し変わっている印象です。ジャズ・ファンク寄りの演奏感もあり、単純なディスコ作品とは違う広がりを持っています。
収録曲のポイント
表題曲「Mysteries Of The World」は、アルバムの中心に置かれた1曲です。ファンキーなグルーヴにシンセとオーケストラを重ねた設計で、リズムの押し出しと音の層の両方が前に出ています。後年の再評価でもよく取り上げられる曲で、レア・グルーヴやDJ文脈で語られる機会が多いのもこの曲です。
「Tell Me Why」ではカーラ・ベンソンがボーカルを担当し、インスト主体のアルバムの中で声の存在感を持たせています。「Manhattan Skyline」はホーンとストリングス、スラップ・ベースの組み合わせが見どころで、都市的な題名にふさわしい直線的な進行。「Metamorphosis」はワウ・ギターとホーン・ソロが引っ張る構成で、演奏の切り替えがはっきりしています。「Old San Juan」ではフラメンコ風のギターが取り入れられ、曲ごとの色分けが明確です。
MFSBにおける位置づけ
MFSBは1973年の「TSOP (The Sound of Philadelphia)」で大きな成功を収め、その後も「Love Is the Message」「Sexy」「K-Jee」などで知られました。そうした70年代の代表作と比べると、『Mysteries Of The World』は商業面では控えめな結果にとどまった作品です。BillboardのR&Bアルバム・チャートでも大きな上位進出は記録していません。
ただ、作品としてはMFSBの後期の姿をよく示しています。フィリー・ソウルの豪華な編成を保ちながら、80年代のシンセ・サウンドを自然に組み込んだ点が特徴で、同時代のディスコ後期やジャズ・ファンクの流れともつながります。70年代のPhiladelphia International周辺の音作りを知る耳で聴くと、ここでの変化は分かりやすいです。
音の印象
実際に聴くと、まずリズムの輪郭がはっきりしています。ベースとドラムが前に出る場面が多く、そこへホーンやストリングス、シンセが順に重なっていく作り。派手さだけで押すのではなく、アンサンブルの中で各パートが役割を持って動いている感じがあります。表題曲は特に、そのレイヤーの積み重ねがよく分かる内容です。
MFSBの歴史の中では、70年代の大ヒットの後に位置する1枚ですが、単なる余波ではなく、当時のフィラデルフィア産R&Bがどこへ向かったかを示す記録でもあります。フィリー・ソウル、ディスコ、ジャズ・ファンクの接点にあるアルバムとして、1980年という年の空気をそのまま閉じ込めた作品です。
トラックリスト
- A1 Manhattan Skyline 4:27
- A2 Mysteries Of The World 5:27
- A3 Tell Me Why 3:57
- A4 Metamorphosis 5:16
- B1 Fortune Teller 6:08
- B2 Old San Juan 4:27
- B3 Thank You Miss Scott 4:14
- B4 In The Shadow 3:37