Gong - You (1974)
Gong『You』──1974年に完成した“Radio Gnome Invisible”三部作の終着点
Gongの『You』は、1974年10月にVirgin Recordsから発表された5作目のスタジオ・アルバムだ。Daevid Allenを中心とする時期のGongとしては最後の作品で、のちに1992年の『Shapeshifter』まで続く流れをいったん締めくくる位置にある。フランスで結成されたこのバンドは、サイケデリック・ロックの文脈の中でも独自の神話世界を築いた存在として知られ、Canterbury系の音楽とも深く結びついてきた。
本作は『Flying Teapot』『Angel’s Egg』に続く“Radio Gnome Invisible”三部作の最後の1枚でもある。シリーズ全体で共有される物語性を受け継ぎながら、短い語りの断片と長めの演奏曲を組み合わせ、Gongらしい宇宙観をさらに押し広げた内容だ。録音はイングランドのオックスフォードシャーにあるVirginのThe Manor Studiosで行われ、サイド1はロンドンのPye Studios、サイド2はThe Manorでミックスされた。プロデュースはSimon HeyworthとGong名義、エンジニアもHeyworthが担当している。
日本盤について
ここで扱うのは、日本で1978年に出たVirgin盤、品番はVIP-6925。オリジナルの1974年盤からは時間が空いているが、作品そのものはあくまで1974年のアルバムとして捉えるのが自然だ。Virginの日本盤としては、当時の同レーベルの流通やデザインの流れを反映したリリースで、UK初版に付属していたインサートの存在も知られている。Virginのこの時期のLPは、Roger Deanによるラベルデザインで語られることが多く、『You』はその色付きDeanラベル系の最後期に属する作品としても位置づけられる。
日本盤の再発として見ると、70年代中盤のVirgin作品が国内でまとまって入ってきた時期の一枚という意味合いが強い。初出時の空気をそのまま持ち込むというより、少し遅れてGongの重要作を追体験できる盤、という見え方になる。
作品の位置づけ
『You』は、Gongの神話世界を音楽として最も整理された形で示したアルバムのひとつだと思われる。前2作の流れを受けつつ、ジャズ寄りの展開、語り、反復するリフ、スペースロック的な浮遊感が、1枚の中で比較的はっきり組み合わされている。Daevid Allen期の締めくくりという意味でも重要で、ここから先のGongは別の編成、別の方向へ展開していく。
同時代の英国プログレやサイケデリック・ロックと比べると、Gongは曲の構成よりも世界設定そのものに強い重心がある。Canterbury系の複雑さ、フリー・ジャズ的な流れ、スペースロックの反復が同居していて、単純にジャンル名だけでは収まりにくい。Steve Hillage、Didier Malherbe、Tim Blakeらの演奏も含め、演奏の密度は高いが、技巧を前面に出すというより、物語を進めるための手段として機能している。
注目曲「Master Builder」
本作を語るうえで外せないのが「Master Builder」だ。Gongを代表する曲として知られ、アルバムの中でも特にリフの印象が強い。Steve Hillageはこの曲を1978年のソロ作『Green』で「The Glorious Om Riff」として再構成しており、曲そのものがGong内部にとどまらない広がりを持っていたことがわかる。
演奏面では、反復するモチーフの上に各楽器が少しずつ層を重ねていく作りが特徴で、Gongの中でも比較的入り口が見えやすい楽曲だ。とはいえ単純なロックのリフ曲ではなく、リズムの揺れや展開の切り替えが細かく、バンドの持つジャズ・ロック的な感覚がよく出ている。後年、Acid Mothers Templeが「Om Riff」として取り上げたことからも、この曲の持つ反復性と宇宙的な感覚が長く参照されてきたことがうかがえる。
注目曲「A Sprinkling of Clouds」
「A Sprinkling of Clouds」は、アルバム中でも展開の流れを大きく担う曲だ。タイトル通りの軽い印象に反して、実際にはバンドの演奏がじわじわと空間を埋めていく構成で、短い断片的なパートと長いインストゥルメンタルの橋渡し役になっている。Gongのアルバムは物語性が先に立つことが多いが、この曲では演奏そのものの連続性が前に出る。
音の重なり方は、派手なサビで押すタイプではない。むしろ、フレーズが少しずつ変化し、気づくと別の場所へ運ばれているような作りだ。『You』全体の中で、メロディよりも流れを重視するGongらしさがよく出た一曲と言える。
注目曲「Isle of Everywhere」
「Isle of Everywhere」も、アルバムの核にある長尺インストゥルメンタルのひとつだ。Gongの持つ“宇宙”のイメージが、言葉より演奏の積み重ねで描かれていくタイプの曲で、バンドのアンサンブルのまとまりが見えやすい。ここでは各プレイヤーが前に出すぎず、全体のうねりを作る方向へ向かっている。
この曲の面白さは、音数の多さよりも、空白の使い方にある。密度の高いフレーズが続くのに、圧迫感はそれほど強くない。Gongが単なる奇抜さではなく、構造のあるサイケデリック・ロックを作っていたことが伝わる場面だ。
まとめ
『You』は、Gongの神話的な世界観と、演奏主体のロック・バンドとしての強さが、かなり明確な形で結びついた作品だ。三部作の最終章としての役割もあり、Daevid Allen期Gongのひとつの到達点として見ることができる。日本盤の1978年再発は、オリジナルから数年後にこの重要作へ触れられる形になっていて、Virgin期Gongの輪郭を知るうえでも意味のある一枚だ。
スペースロック、サイケデリック・ロック、プログレッシブ・ロックの交点にある作品として、同時代の英国ロック史の中でも独特の位置を占めている。Gongの中でも、物語と演奏の両方がはっきり前に出たアルバムとして記憶される1作だ。
トラックリスト
- A1 Thought For Naught
- A2 A PHP's Advice
- A3 Magick Mother Invocation
- A4 Master Builder
- A5 A Sprinkling Of Clouds
- B1 Perfect Mystery
- B2 The Isle Of Everywhere
- B3 You Never Blow Yr Trip Forever
動画
- Thoughts for Naught (2015 Remaster)
- A P.H.P's Advice (2015 Remaster)
- Magick Mother Invocation (2015 Remaster)
- Master Builder (2015 Remaster)
- A Sprinkling of Clouds (2015 Remaster)
- Perfect Mystery (2015 Remaster)
- The Isle of Everywhere (2015 Remaster)
- You Never Blow Your Trip Forever (2015 Remaster)