Talking Heads - Remain In Light (1980)
Talking Heads『Remain In Light』――1980年の時点で到達していた、バンドの再編成
Talking Headsの4作目『Remain In Light』は、1980年10月8日に発表された作品で、バンドのディスコグラフィーの中でも大きな転換点に置かれるアルバムだ。前作までのニューウェイヴ/アートロック的な感触を残しながら、ここではリズムの組み立て方が大きく変わっている。コンパス・ポイント・スタジオでの録音を起点に、ジャムから断片を拾い上げ、ループのように反復させて楽曲へまとめていく手法が前面に出ている。制作の中心にはブライアン・イーノがいて、バンドの演奏を素材として再構成する姿勢がはっきりしている。
この作品を語るうえで、アフロビートやアフリカン・ポップスの影響は外せない。フェラ・クティ周辺の音楽に通じる多層的なリズム、ファンクの推進力、電子的な処理が重なり、Talking Headsのそれまでの都会的な緊張感とは別の方向へ進んでいる。とはいえ、単純な模倣ではなく、デヴィッド・バーンの歌唱や言葉の切れ味、バンドの演奏の噛み合わせによって、独自の形にまとまっている。実際に聴くと、各曲が一直線に進むというより、細かいパーツがずっと回り続け、その上に声やフレーズが乗っていく感触が強い。
アルバムとしての位置づけ
『Remain In Light』は、Talking Headsの4枚目のスタジオ・アルバムであり、バンドの中でも特に評価の高い1枚として扱われてきた。メンバーはデヴィッド・バーン、クリス・フランツ、ティナ・ウェイマス、ジェリー・ハリソン。ニューヨークのCBGB周辺から出てきたバンドが、ここで一気に視野を広げた印象がある。ニューウェイヴの枠に収まりきらず、ファンク、ポリリズム、アートロックの要素が交差する内容で、同時代のロック作品の中でもかなり特異な立ち位置だ。
制作終盤にはクレジット表記をめぐる対立も起きた。初期の表記ではバーンとイーノが前面に出ていたが、その後の再発盤ではバンド内の扱いが修正されている。オリジナル盤と再発盤を比べると、音そのものよりも、こうした表記やクレジットの細部に当時の空気が残っている。
収録曲の存在感
代表曲としては「Once in a Lifetime」がまず挙がる。後年まで語られることの多い曲で、反復するビートの上にバーンの語り口が乗る構造が、アルバム全体の方法をもっともわかりやすく示している。ヒット曲としての広がりもあった一方で、曲の作りはかなり実験的だ。「Born Under Punches (The Heat Goes On)」や「Crosseyed and Painless」も、リズムの切り分け方とコーラスの配置が印象に残る。「The Overload」は、全体の流れの中で不穏さを強める役割を持っていて、アルバムの終わり方にも余韻がある。
制作時のエピソードとしては、録音開始時点で形になっていた曲が「I Zimbra」だけだったという話が知られている。そこからスタジオでの反復と編集を重ねて作品へまとめていった経緯は、このアルバムの音そのものに直結している。録音はバハマのコンパス・ポイント・スタジオ、追加録音とミックスはニューヨークのシグマ・サウンド、マスタリングはスターリング・サウンド。クレジットを追うだけでも、複数の場所で音が磨かれていったことがわかる。
当時の文脈と影響
1980年の時点で、Talking Headsはすでに単なるニューウェイヴ・バンドではなかった。パンク以後の都市型ロックの文脈にいながら、アフリカ由来のリズムやファンクの反復を大胆に取り込み、別のポップの形を探っている。後のオルタナティブ・ロックやアートポップ、ファンク・ロックの流れを考えると、この作品の影響はかなり大きい。批評面でも高く評価され、のちに『Rolling Stone』の各種ランキングや米国議会図書館のナショナル・レコーディング・レジストリにも選ばれている。
SireレーベルからリリースされたUS盤は、ワーナー傘下で市場に出ていた時代の空気も反映している。ジャケット、インナー、歌詞シートまで含めて、作品の輪郭がはっきりしている盤面だ。『Remain In Light』は、Talking Headsが持っていた知的な緊張感とダンスの推進力が、ひとつの形として結晶したアルバムとして記憶されている。
トラックリスト
- A1 Born Under Punches (The Heat Goes On) 5:46
- A2 Crosseyed And Painless 4:45
- A3 The Great Curve 6:26
- B1 Once In A Lifetime 4:19
- B2 Houses In Motion 4:30
- B3 Seen And Not Seen 3:20
- B4 Listening Wind 4:42
- B5 The Overload 6:00