Lee Dorsey - Yes We Can (1970)
Lee Dorsey『Yes We Can』
ニューオーリンズのR&Bシンガー、リー・ドーシー(Lee Dorsey)が1970年にPolydorから発表したアルバム『Yes We Can』は、希代のソングライター/プロデューサーであるアラン・トゥーサン(Allen Toussaint)が全面的に指揮を執り、バック演奏に黎明期のザ・ミーターズ(The Meters)を配して制作されたニューオーリンズ・ファンク/ソウルの名盤である。収録曲のほとんどはトゥーサンの書き下ろしであり、唯一の例外はジョー・サウス作の「Games People Play」。セカンドラインの軽快なシンコペーションと粘り気のあるバイユー・ファンクが絶妙に融合し、1970年代のニューオーリンズ音楽の指標となった一作である。
制作背景・エピソード
リー・ドーシーとアラン・トゥーサンの共同作業は1960年代初頭のヒット「Ya Ya」や「Working in the Coal Mine」にまで遡る。しかし1960年代末、ドーシーは本業である自動車の板金塗装業に戻り、音楽界から一時離れていた。そんな彼を再びスタジオに呼び戻したのがトゥーサンであった。
レコーディングはルイジアナ州ニューオーリンズで行われ、トゥーサンがプロデュース、アレンジ、ピアノ/キーボード演奏、そして大半の楽曲提供を一手に担った。リズム隊として全面的に参加したのは、すでにインスツルメンタル・ファンクで頭角を現していたザ・ミーターズの面々――アート・ネヴィル(キーボード)、ジョージ・ポーターJr.(ベース)、レオ・ノセンテリ(ギター)、ジョセフ・“ジガブー”・モデリスト(ドラムス)である。さらに楽曲によっては名ドラマーのジェームズ・ブラックも加わり、ニューオーリンズ屈指のスタジオ・ミュージシャンが集結した。
ドーシーの飾らない温かみとユーモアを湛えたバリトン・ヴォーカル、トゥーサンの洗練されたコード進行とホーン・アレンジ、そしてミーターズの生み出すタイトで跳ねるようなリズムが三位一体となり、唯一無二のアンサンブルを築き上げた。
時代の文脈
1970年は、公民権運動の高揚と混乱を経て、ブラック・ミュージックがより直接的な社会意識や連帯のメッセージを打ち出し始めた変革期にあたる。本作のオープニングを飾る表題曲「Yes We Can」や「Who's Gonna' Help Brother Get Further」には、貧困や人種問題に向き合いながらも互いに助け合おうと呼びかける前向きなメッセージが込められている。
音楽的にも、1960年代のポップなニューオーリンズR&Bから、重心が低くタイトな1970年代型ファンクへと進化する決定的な橋渡しとなった。快楽的なダンス・グルーヴのなかに、当時の黒人社会が抱える現実と希望を巧みに織り込んだ点に、トゥーサンとドーシーの成熟がはっきりと示されている。
サウンドと聴きどころ
本作の最大の魅力は、研ぎ澄まされたミニマリズムと強靭なグルーヴの調和にある。表題曲「Yes We Can」では、ジガブーの歯切れのよいスネアとジョージ・ポーターJr.のうねるベースラインが基本のビートを刻み、レオ・ノセンテリのカッティング・ギターとトゥーサンの跳ねるピアノが絶妙な隙間を縫っていく。ドーシーの語りかけるようなリラックスした歌唱は、重いファンク・トラックに親しみやすさを与えている。
「Sneakin' Sally Thru The Alley」は、浮気を題材にしたコミカルで軽妙な名曲。ギターのリフとホーンの鋭いアクセントが絶妙な緊張感を生み出している。また、ジョー・サウスのヒット曲をカバーした「Games People Play」では、原曲のカントリー・ソウル風味を完全にニューオーリンズ流のファンク・シャッフルへと換骨奪胎しており、バンドの卓越したアレンジ力が際立つ。アカペラ風のコーラスと遊び心あふれるパーカッションが印象的な「Occapella」など、アルバム全体を通じて無駄な音を一切削ぎ落としたタイトなアンサンブルが堪能できる。
後世への影響
『Yes We Can』はリリース当時大きな商業的成功を収めたわけではなかったが、収録された楽曲群はロックやポップス、ファンクの歴史において極めて強い影響力を誇っている。
表題曲「Yes We Can」は、1973年にポインター・シスターズが「Yes We Can Can」としてカバーし、全米チャート11位のビッグヒットを記録。さらに2008年の米大統領選挙においてバラク・オバマ陣営の象徴的アンセムとして引用されるなど、時代を超えて歌い継がれている。
「Sneakin' Sally Thru The Alley」は、英国のシンガーであるロバート・パーマーが1974年のソロ・デビュー作のタイトル曲としてカバーした。その際、パーマーはミーターズとリトル・フィートのメンバーをバックに起用しており、ニューオーリンズ・ファンクが米英のロック/ブルー・アイド・ソウル勢へと波及していく決定的な契機となった。さらに「Occapella」はリンゴ・スターがアルバム『Goodnight Vienna』(1974年)で取り上げるなど、本作はロック系ミュージシャンにとっての重要なインスピレーション源となった。
現在ではAllMusicで最高評価の5つ星を獲得するなど、アラン・トゥーサン、リー・ドーシー、ザ・ミーターズというニューオーリンズ音楽史の重要人物たちが交錯した金字塔として、世界中のソウル/ファンク愛好家からリスペクトを集め続けている。
トラックリスト
- A1 Yes We Can - Part I 3:27
- A2 Riverboat 2:33
- A3 Tears Tears And More Tears 3:19
- A4 O Me-O, My-O 2:24
- A5 Sneakin' Sally Thru The Alley 2:49
- A6 Yes We Can - Part II 3:26
- B1 Who's Gonna' Help Brother Get Further 3:02
- B2 Games People Play 3:12
- B3 When The Bill's Paid 2:25
- B4 Occapella 2:39
- B5 Gator Tail 2:59
- B6 Would You? 3:44
動画プレイリスト
このアーティストについて
Lee Dorsey(リー・ドーシー、1924年12月24日 - 1986年12月1日)は、アメリカ・ルイジアナ州ニューオーリンズ出身のR&B/ソウル・シンガー。気取...
Lee Dorsey のプロフィール・作品一覧