Mariya Takeuchi = 竹内まりや - Variety = ヴァラエティ (1984)
竹内まりや『VARIETY』——活動再開作としての1984年盤
竹内まりやの『VARIETY』は、1984年4月25日にMoon Recordsから発表された6作目のスタジオ・アルバム。オリジナル盤は日本制作で、LPとしての発売当時から強い存在感を持つ一枚だ。前作からの時間を経て届けられたこの作品は、竹内まりや自身の作家性が前面に出た内容で、同時代の日本のポップスやシティ・ポップの流れの中でも、はっきり輪郭の立つアルバムになっている。
この時期の竹内まりやは、歌手としてだけでなく、作詞作曲を担う表現者としての比重が大きい。『VARIETY』は、その姿がまとまった形で表れたアルバムで、後年の代表作群につながる重要な位置にある。山下達郎がプロデュースを務め、制作の中心を支えたことでも知られている。アルバム全体を通して、歌の運び、言葉の置き方、演奏の手触りまで含めて、かなり丁寧に組み立てられている印象が残る。
収録曲と代表曲
収録曲は「もう一度」「プラスティック・ラヴ」「本気でオンリーユー(Let’s Get Married)」「マージービートで唄わせて」「水とあなたと太陽と」など全9曲。なかでも「プラスティック・ラヴ」は、このアルバムを語るうえで外せない曲だ。発売当時から知られた一曲だったが、のちに海外での再評価が進み、シティ・ポップを代表する曲として広く聴かれるようになった。
ただ、アルバム全体を見れば、「プラスティック・ラヴ」だけが突出しているわけではない。「もう一度」のような曲では、復帰作らしい緊張感と整ったポップ感があり、「マージービートで唄わせて」ではタイトルどおりの軽快さが前に出る。曲ごとの表情がかなり違い、タイトルの『VARIETY』がそのまま内容に反映されている。
音の作り、聴きどころ
実際に聴くと、まずアレンジの情報量が多い。ベース、ギター、キーボード、コーラスの配置がきれいで、音が混み合っても歌の輪郭は崩れにくい。ファンク、ポップ、ロック、ソウルの要素が混ざっているが、どれか一つに寄り切らず、曲ごとに役割を変えている。派手な演出より、細かい演奏の積み上げで曲を立てる作り。
歌の面では、竹内まりやの声が前に出すぎず、曲の温度に合わせて自然に置かれている。たとえばダンサブルな曲でも力で押さず、言葉のリズムを保ったまま進む。バラードでは音数を抑えたぶん、語尾や息づかいが耳に残る。こうした落ち着いた歌唱が、アルバムの統一感につながっている。
制作背景と位置づけ
『VARIETY』は、活動休止を経ての復帰作という意味を持つ。1981年以降しばらく表立った活動から離れていた竹内まりやが、1984年に本格的に戻ってきた作品であり、本人の作家性が大きく前に出た。プロデュースは山下達郎。もともとは外部作家への依頼も考えられていたが、竹内まりや自身の自作曲を聴いて方針が変わり、結果として全曲を本人が書いたアルバムになったという流れがある。
この点は、シンガーとしての復帰作というだけでなく、ソングライターとしての確立を示す出来事でもある。1980年代前半の日本のポップスには、都会的な洗練と洋楽的な感覚を持ち込む動きがあり、その中で『VARIETY』は、山下達郎の作品群や大貫妙子、伊藤銀次、杉真理、センチメンタル・シティ・ロマンス周辺の感覚とも地続きにある。ただし、あくまで竹内まりや自身の言葉とメロディが中心にある点が、このアルバムの核になっている。
クレジットと当時の空気
オリジナル盤のクレジットには、大貫妙子、難波弘之、センチメンタル・シティ・ロマンス、杉真理、伊藤銀次、吉川忠英らの名前が並ぶ。スタジオ周辺のミュージシャンがしっかり関わっていて、当時の東京のポップ制作の空気がそのまま封じ込められている感じがある。ジャケットはゲートフォールド仕様で帯付き、歌詞は内側に収録。LPとしての見せ方も、80年代中盤の日本盤らしい作りだ。
ライナーノートの謝辞も、この作品の輪郭をよく伝えている。Moon Recordsのスタッフ、A&M側の関係者、スタジオのオンキョーハウス、矢野顕子と坂本龍一への言及まで含めて、制作現場の人間関係が見える。単独のヒット作というより、周囲の人々と一緒に作られたアルバムという性格が強い。
後年の評価と再発
発売当時、『VARIETY』はオリコン週間LPチャート1位を記録し、年間でも上位に入った。カセット版も好調で、当時の広いリスナー層に届いていたことがわかる。その後、2014年には30周年記念盤が登場し、未発表曲「赤のエナメル」やボーナス・リミックスが加えられた。2021年には配信解禁とアナログ再発も行われ、再び手に取りやすい形になった。
1984年のオリジナル盤は、作品としてのまとまりと時代の空気をそのまま閉じ込めた一枚。『プラスティック・ラヴ』の存在で知られることが多いが、実際には、竹内まりやが作詞作曲を一手に担い、歌・演奏・アレンジのバランスまで含めて自分の輪郭をはっきり示したアルバムとして見るのが自然だ。シティ・ポップの文脈の中でも、単なる懐古の対象ではなく、1984年の制作物として具体的な手触りを持つ作品である。
トラックリスト
- A1 もう一度 4:06
- A2 プラスティック・ラブ 4:51
- A3 本気でオンリーユー (Let's Get Married) 3:53
- A4 One Night Stand 3:57
- A5 Broken Heart 3:55
- B1 アンフィシアターの夜 3:34
- B2 とどかぬ想い 3:36
- B3 マージービートで唄わせて 3:19
- B4 水とあなたと太陽と 3:30
- B5 ふたりはステディ 3:29
- B6 シェットランドに頬をうずめて 3:46