Quincy Jones - Smackwater Jack (1971)
Quincy Jones『Smackwater Jack』(1971) レコード紹介
クインシー・ジョーンズは、作編曲家、プロデューサー、指揮者、そして演奏家としても活動した、20世紀アメリカ音楽の大きな存在だ。この『Smackwater Jack』は1971年にA&M Recordsから出たアルバムで、ジャズを土台にしながら、ソウル、ファンク、ロック、テレビや映画音楽の要素までひとつの作品にまとめている。いわゆる“ジャズ・アルバム”の枠に収まりきらない内容で、クインシーの活動領域の広さがそのまま形になった盤だ。
作品の輪郭
アルバム冒頭を飾るタイトル曲「Smackwater Jack」は、ジェリー・ゴフィンとキャロル・キングの作品。ここでまず耳に入るのは、ジャズの手つきに寄りすぎない、リズムの強さと推進力だ。大編成の鳴りがありながら、演奏は重たくならず、曲の輪郭がはっきりしている。クインシー自身の編曲と指揮が前面に出た作りで、複数の要素を整理しながら進めていく手際が目立つ。
収録曲には、クインシーが手がけたテレビや映画の楽曲も入る。『Ironside(鬼警部アイアンサイド)』のテーマ、「Hikky-Burr」(ビル・コスビーとの共作で、『The Bill Cosby Show』のテーマとして知られる曲)、映画『The Anderson Tapes』のテーマなど、映像作品と結びついた曲が並ぶ。ここでは“アルバム用の新曲集”というより、クインシーの仕事の幅そのものを一枚に封じた印象が強い。
参加ミュージシャンと録音
録音はニューヨークのA&R Studios。制作にはフィル・ラモーンも関わっている。参加者も豪華で、ヴァレリー・シンプソン、フレディ・ハバード、ヒューバート・ロウズ、ミルト・ジャクソンらが加わる。シンプソンはTamla Records所属、ハバードとロウズはCTI Records所属で、それぞれの所属レーベルの“好意による参加”としてクレジットされている。こうした顔ぶれが、アルバムの音にジャズ、ソウル、ファンクの接点を与えている。
ジョーンズ自身もヴォーカルを取っている点が、この作品の面白さのひとつだ。編曲家・プロデューサーとしての印象が強い人だが、この盤では“歌う側”の存在感も残している。演奏の流れの中に、作り手本人の輪郭が見える構成。
収録内容の流れ
レコードの中ほどでは、マーヴィン・ゲイの「What’s Going On?」が約10分にわたる長尺のアレンジで置かれている。原曲の持つ社会的な温度を保ちながら、オーケストレーションとバンドの動きで別の表情を与えた仕上がりだ。さらにラストの「Guitar Blues Odyssey: From Roots To Fruits」では、ギターを中心に据えたインストゥルメンタルで締めくくられる。曲順全体を見ると、ポップス、ソウル、ジャズ、映画音楽がばらばらに並ぶのではなく、ひとつの流れとして組み立てられている。
この時期のクインシーは、すでにジャズ畑の人というより、ジャンル横断のアレンジャー、プロデューサーとしての性格を強めていた。後年のマイケル・ジャクソン作品で広く知られる前段階としても、こうしたアルバムは重要だ。大きな編成を使いながら、細部はラフすぎず、しかし整いすぎてもいない。その中間のバランス感覚がよく出ている。
リリースと評価
オリジナルは1971年のUS盤で、A&M RecordsのSP-3037。レーベルの歴史を見ても、この時期のA&Mはジャズ、ポップ、ソウルをまたぐ作品を多く抱えていた。盤のクレジットには、Terre Hauteプレスを示す「T」の刻印がある。録音当時の空気をそのまま持つ初出盤として、音のまとまりや質感を確かめる楽しみもある。
チャート面では、Billboard 200で56位、R&Bアルバム・チャートで11位を記録。翌1972年のグラミー賞ではBest Pop Instrumental Performanceを受賞している。評価は聴き手や資料によって差があるが、少なくともこのアルバムが、クインシー・ジョーンズの幅広い仕事を一枚で示す作品として作られていることははっきりしている。
まとめ
『Smackwater Jack』は、ジャズの文法を土台にしながら、ソウルやファンク、映像音楽の感覚まで取り込んだ1971年のアルバムだ。タイトル曲、テレビ音楽の再構成、「What’s Going On?」の長尺アレンジ、そして豪華な参加ミュージシャン。どの要素も単独で目立つが、全体ではクインシー・ジョーンズという作り手の整理能力が前に出る。演奏の熱量と編曲の設計、その両方が記録された一枚。
トラックリスト
- A1 Smackwater Jack 3:23
- A2 Cast Your Fate To The Wind 4:25
- A3 Ironside (Theme From "Ironside"; NBC-TV) 3:53
- A4 What's Going On? 9:52
- B1 Theme From "The Anderson Tapes" 5:16
- B2 Brown Ballad 4:18
- B3 Hikky-Burr (Theme From "The Bill Cosby Show"; NBC-TV) 5:03
- B4 Guitar Blues Odyssey: From Roots To Fruits 6:38