Patti Smith - Horses (1975)
Patti Smith『Horses』(1975)
Patti Smithの『Horses』は、1975年にUSのAristaから出たデビュー・アルバム。ロック、パンク、アート・ロック、ガレージ・ロックの輪郭が重なり合う作品で、のちのパンク以後の表現に強い印象を残した1枚として扱われている。Patti Smithは1946年シカゴ生まれのアメリカ人ミュージシャンで、詩人としての感覚をロックのフォーマットに持ち込んだ人物でもある。のちにロックの殿堂入りを果たしているが、この作品を聴くと、その評価の出発点がすでにここにあったことが分かる。
デビュー作としての位置づけ
『Horses』は、Patti Smithにとって最初のアルバムであり、同時に作品世界の輪郭を強く示した初出作でもある。録音はニューヨークのElectric Lady Studios、マスタリングはSterling Sound。制作にはジョン・ケイルが関わっている。もともと技術面の支えを求めていたところに、強い個性を持つ芸術家タイプの相手が入ったことで、現場は緊張感のあるものだったと伝えられている。結果として、演奏の荒さや言葉の切れ味がそのまま盤に残っている。
ジャケット写真もよく知られている。ロバート・メイプルソープが撮影したもので、白い壁と自然光を背景に、Patti Smithがジャケットを肩にかけた中性的な姿を見せる1枚。サム・ワグスタッフのペントハウスで撮影され、少ないカットの中からこの構図に落ち着いたというエピソードがある。音だけでなく、視覚面でも1970年代ロックの記号をずらした作品。
収録曲と聴きどころ
代表曲としてまず挙がるのは「Gloria」。ジャケット表記では小文字の「gloria」になっている。ヴァン・モリソンの曲を土台にしながら、冒頭からPatti Smithの語りと歌が前に出て、原曲の枠を押し広げる作り。歌詞の入り方、間の取り方、バンドの鳴り方が一体になっていて、単なるカバーに収まっていない。
続く「Land」も重要な曲で、こちらもジャケットでは「land」と表記されている。長い尺の中で語り、演奏、叫びが切り替わっていく構成で、詩とロックの接点をかなり明確に見せる。アルバム全体を通して、曲の長さよりも言葉の運びとバンドの推進力が印象に残るつくり。
「Break It Up」にはテレヴィジョンのトム・ヴァーレインが共作とギターで参加している。ジム・モリソンのイメージを軸にした楽曲で、ロック史の記憶を別のかたちで引き寄せるような内容。ニューヨークの初期パンク・シーンとの距離感も、この曲で見えやすい。
盤面の特徴とオリジナル盤の姿
このUSオリジナル盤は、Aristaのライトブルー地ラベルが特徴で、白い“Arista Records”ロゴ、TM表記なし、黒字レーベル表記、下部に「℗ 1975 Arista Records, Inc.」が入る仕様。カバーには黒字で“Horses”と印刷されている版。インナースリーブはダイカット仕様のArista紙スリーブで、中央穴の周囲に水色のAロゴが並ぶ。カタログ番号はジャケットとラベルにAL 4066、スパインに4066。
録音物としては、いわゆる“整った”ロック盤というより、言葉と演奏のぶつかり方が前に出るタイプ。音圧や演奏の隙間も含めて、当時の空気がそのまま閉じ込められている印象が強い。収録曲の配置も、短い曲と長い曲の差がはっきりしていて、アルバム単位で聴いたときの流れが重要な作品。
同時代の文脈
1975年という年を考えると、『Horses』は既存のハードロックやシンガーソングライター系の文脈とは少し違う場所に立っている。ニューヨークのアート・ロック、後のパンクへつながる感覚、詩の朗読に近い発声、そのあたりが混ざり合った盤。テレヴィジョンやヴェルヴェット・アンダーグラウンド周辺の感覚とも近いが、Patti Smith自身の言葉が前に出るぶん、単なるシーンの産物には収まらない。
発売当時は評価が割れたという話も残るが、のちには『Rolling Stone』誌の改訂版「500 Greatest Albums」で上位に置かれている。初出時から現在までの間に、作品の見られ方が大きく変わった例でもある。『Horses』は、Patti Smithの出発点であると同時に、1970年代ロックの別の可能性を示したアルバムとして記憶されている。
トラックリスト
- Gloria: 5:54
- A2 Redondo Beach 3:24
- A3 Birdland 9:16
- A4 Free Money 3:47
- B1 Kimberly 4:26
- B2 Break It Up 4:05
- Land: 9:36
- B4 Elegie 2:42