Pink Floyd - A Saucerful Of Secrets (1968)
Pink Floyd『A Saucerful Of Secrets』— 1968年の転換点を刻んだ2作目
Pink Floydの『A Saucerful Of Secrets』は、1968年に発表されたセカンド・アルバムである。デビュー作『The Piper at the Gates of Dawn』で強く印象づけたサイケデリック・ロックの感触を引き継ぎながらも、バンドの内部構成が変わり、次の段階へ移る途中の姿がそのまま残っている作品だ。シド・バレットの関与が減り、ロジャー・ウォーターズ、リチャード・ライト、ニック・メイスン、そして加入後まもないデヴィッド・ギルモアの役割が少しずつ固まっていく時期の記録でもある。
この2016年盤は日本でリリースされた再発盤で、2016年のUS再発盤をベースに、日本製の帯、解説、インサート類を加えた仕様になっている。オリジナルの1968年盤とは時代も流通事情も異なるが、アルバム本体の内容はそのままに、国内盤らしい体裁でまとめられている点が特徴だ。
バレット期から次のフロイドへ
本作は、Pink Floydにとって非常に重要な位置にある。バンドは1965年にロンドンで結成され、当初はアンダーグラウンド・シーンの中で実験的な演奏と長尺の即興、そして照明や映像を伴うライブで注目を集めた。『A Saucerful Of Secrets』では、その路線を保ちながらも、曲ごとの色合いがより分散し、のちのプログレッシブ・ロックへつながる輪郭が見え始める。
収録曲の中では、「Set the Controls for the Heart of the Sun」がよく知られている。ゆっくりとしたテンポ、反復するリズム、音の隙間を生かした構成が印象的で、後年のPink Floydに通じる要素がはっきり出ている。「Let There Be More Light」や「Corporal Clegg」も、初期フロイド特有のひねりを持った曲で、単純なサイケデリアに収まらない。いっぽうで、表題曲「A Saucerful of Secrets」は組曲的な展開を持ち、メンバーそれぞれの音が段階的に積み上がっていく構造が際立つ。
シド・バレットの最後の痕跡
このアルバムで特に重要なのが「Jugband Blues」である。これはシド・バレットがPink Floydに残した最後の曲として知られ、彼の在籍期の終わりを示す一曲になっている。バレットの作風は、初期フロイドの核だった遊び心や不安定さを強く支えていたが、この時点ではバンド全体の作曲体制がすでに変化していた。「Jugband Blues」には、その移行期ならではの距離感がそのまま残っている。
制作は1967年から1968年にかけて断続的に進められ、アビイ・ロードを中心に録音された。表題曲のような長い構成だけでなく、短い楽曲にも異なる質感があり、アルバム全体がまとまりよりも移行の記録として機能している。初期のPink Floydにあった即興性、サイケデリックな浮遊感、そしてのちの実験的な構築美が、ひとつの盤面に並んでいる形だ。
1968年当時と、その後の評価
発売当時、この作品は英国で一定の成功を収め、アルバムとしての存在感を示した。一方で、初期の評価は必ずしも一枚岩ではなく、デビュー作と比べてまとまりが弱いと受け止められることもあった。ただ、のちに聴き直される中で、「Set the Controls for the Heart of the Sun」や表題曲のような楽曲は、Pink Floydが後に築く瞑想的で構築的なサウンドの先触れとして扱われるようになった。
同時代の英国ロックの中では、サイケデリック・ムーブメントの終盤に位置する作品として見やすい。The BeatlesやThe Soft Machine、Procol Harumなど、実験性を含んだ1960年代後半の流れと並べると、Pink Floydはより音響的で、ライブ志向の強いバンドだったことがわかる。本作はその特徴が、後の『Meddle』や『The Dark Side of the Moon』へつながる前段階として記録された一枚でもある。
この2016年日本盤について
2016年の日本盤は、再発盤をベースにしながら、帯や日本語解説、シリーズ用のインサートが付属する構成である。オリジナルの1968年盤をそのまま追うというより、後年の再発仕様に国内向けの付加要素を加えた形だ。Pink Floydの初期作品は、オリジナル盤ごとの細部やリイシューの違いが注目されやすいが、この盤でも作品そのものの歴史的な位置づけは変わらない。1968年の空気と、そこから次の時代へ移ろうバンドの姿が、今もそのまま聴ける。
『A Saucerful Of Secrets』は、完成形のアルバムというより、変化の途中をそのまま閉じ込めた記録に近い。だからこそ、曲ごとの表情の差が大きく、初期Pink Floydの揺れがよく見える作品である。
トラックリスト
- A1 Let There Be More Light
- A2 Remember A Day
- A3 Set The Controls For The Heart Of The Sun
- A4 Corporal Clegg
- B1 A Saucerful Of Secrets
- B2 See Saw
- B3 Jugband Blues
動画プレイリスト
-
Pink Floyd - Let There Be More Light (Official Audio)
-
Pink Floyd - Remember A Day (Official Audio)
-
Pink Floyd - Set The Controls For The Heart Of The Sun (Official Audio)
-
Pink Floyd - Corporal Clegg (Official Audio)
-
Pink Floyd - A Saucerful Of Secrets (Official Audio)
-
Pink Floyd - See-Saw (Official Audio)
-
Pink Floyd - Jugband Blues (Official Audio)