Rare Silk - American Eyes (1985)
Rare Silk『American Eyes』について
Rare Silkの『American Eyes』は、1985年にUSのPalo Alto Recordsから出た作品。ボーカル・グループとしてのRare Silkが、ジャズのスウィング感と、当時のフュージョン寄りの音作りをどこまで自然につなげられるか、その輪郭がよく見える一枚である。女性3人のヴォーカル・トリオとして始まり、のちにTodd Buffaが加わったグループの流れを踏まえると、このアルバムは単なるハーモニー重視の作品ではなく、アレンジとバンド感を前面に出した録音として捉えやすい。
グループの出自は1978年のコロラド州ボールダー。Gaile Gillaspie、Marylynn Gillaspie、Marguerite Juenemannの3人を中心に始まり、ボズウェル・シスターズやアンドリュース・シスターズのようなスウィング期コーラスの流れを参照しながら活動を広げた。1980年にはベニー・グッドマンの前座を務め、日本のAurex Jazz Festivalにも出演している。『American Eyes』は、そうした活動を経て、より洗練された編成と録音環境の中でまとめられた作品として位置づけられる。
録音と制作の輪郭
本作はボールダーのCoupe Studiosでプリプロダクションを行い、Caribou RanchやニューヨークのGreene Street Recording、さらにサンフランシスコのCoast Recorders、Different Fur Recordingでも録音された。マスタリングはCBS Recording Studios, New York。制作クレジットを見るだけでも、コロラド、ニューヨーク、サンフランシスコをまたぐ移動の多い制作で、グループの持つローカルな出発点と、全国規模のジャズ制作環境が接続されていることがわかる。
盤の初回USプレスは、ラベル下部の住所表記が2行に分かれているバリエーションで見分けられる。付属の歌詞・クレジット・インサートも含め、当時のLPらしい情報量のある作り。Palo Alto Recordsは1981年にカリフォルニア州パロアルトで設立されたレーベルで、1985年まではHerb Wongが運営面を担っていた。ジャズ寄りの作品を比較的丁寧に扱っていたレーベルの空気が、この盤にもそのまま乗っている。
収録曲と聴きどころ
収録曲はオリジナルに加えて、ミシェル・ルグランの「Watch What Happens」、セロニアス・モンクの「'Round Midnight」、ジミ・ヘンドリックスの「Up From The Skies」など、出自の異なる楽曲が並ぶ構成。スタンダードの再演に寄りすぎず、ソングブックの幅を広く取っている点がこの作品の特徴である。カヴァー曲の選び方だけでも、ジャズの中心部にいながら、ソウル、ポップス、ロックの要素を取り込む姿勢が見える。
なかでもタイトル曲「American Eyes」にはJohn Scofieldが参加している。彼の参加は、作品の中でギターの線を少し硬質にし、ヴォーカル主体のアレンジに輪郭を与えている。さらに、ゲスト奏者としてKim StoneやパーカッションのManolo Badrenaらが加わり、ハーモニーの密度だけでなく、リズム面でも層の厚さが出ている。聴感上も、声が前に出る場面と、バンドのグルーヴが前景化する場面が交互に現れる作り。
「Storm」は近年YouTubeで多く再生されている曲として知られ、作品の中でも耳に残りやすい一曲。流麗なだけで終わらず、複数の声が細かく動きながら、曲の推進力を作っていく。Rare Silkの持ち味である多声ハーモニーが、単なるコーラスではなくアレンジそのものとして機能しているのがわかる場面である。
作品の位置づけ
前作『New Weave』はBillboardのジャズ・アルバム・チャートで2位を記録し、グラミー賞にもノミネートされた。その流れの次に置かれた『American Eyes』は、グループが注目を集めた後に、その音楽性をさらに広げた段階の記録として読める。1980年代半ばのジャズ・ヴォーカル作品の中でも、スムース・ジャズやフュージョンの語法を取り込みながら、合唱的な精密さを保っている点が印象的である。
同時代のジャズ・ヴォーカル作品と比べても、Rare Silkはソロ歌手中心の流れとは少し違う場所にいる。声の重なりを核にしつつ、バンドの演奏や編曲の役割を大きく取る作りで、スウィング期のコーラス・グループの感覚と、80年代の録音美学が同居している。1988年にグループは解散するが、『American Eyes』は、その活動の中盤にあって、アンサンブルの完成度と外部ミュージシャンとの接点がよく見える一枚として残っている。
トラックリスト
- A1 Oops! 5:00
- A2 Watch What Happens 5:42
- A3 'Round Midnight 2:28
- A4 Hello 8:15
- B1 American Eyes 5:12
- B2 Storm 5:30
- B3 Up From The Skies 4:40
- B4 Burn It! 5:35