Annette Peacock - The Perfect Release (1979)
Annette Peacock『The Perfect Release』について
Annette Peacockの『The Perfect Release』は、1979年にアメリカのTomatoから出たアルバムだ。前作『X-Dreams』(1978年)に続く時期の作品で、ピーコックが自作曲、歌唱、プロデュースまで担った一枚として位置づけられる。アメリカ盤はTomatoから、イギリスではAura Recordsからのリリースで、録音はロンドンのKonk StudiosとScorpio Sound Studiosで行われている。ジャズ、ロック、ファンクの要素をまたぎながら、前衛性の強い声の使い方を前面に出した内容で、彼女の代表作の一つとして扱われることが多い。
Annette Peacockという存在
Annette Peacockは、1941年にブルックリンで生まれたアメリカの歌手、作曲家、作詞家、編曲家、プロデューサーだ。ジャズの文脈にいながら、早い時期からモーグ・シンセサイザーの実験にも取り組み、Bley-Peacock Synthesizer Showへとつながる流れを作った人物でもある。夫だったベーシストのGary Peacock、のちに密接に仕事をしたピアニストのPaul Bleyとの関係も知られているが、作品そのものはかなり独自の軌道を持つ。歌手というより、声そのものを楽器のように扱う作家として記憶されやすい人だ。
制作背景と参加ミュージシャン
このアルバムの制作では、ピーコック自身がジェフ・ベック『Blow by Blow』を聴き、その参加メンバーと録音することを決めた、というエピソードが残っている。実際にその流れで、キーボードにMax Middleton、ドラムにRichard Baileyが参加している。ギターはRobert Ahwai、ベースはJohn McKenzie、パーカッションはDaryl Lee QueとLennox Langtonが担当し、Langtonはスティール・ドラムも弾いている。編成としては、ジャズ・ロック、フュージョン、ファンクの周辺をしっかり押さえた布陣だ。
ただ、そこで鳴っているものは単純なフュージョンの快走ではない。リズムは締まりがある一方で、ピーコックの歌は旋律をなぞるだけに収まらず、語りに近い発声から、鋭く跳ねるような叫びまでを行き来する。演奏が土台を固め、その上で声が前に出たり横にずれたりする構造になっている。
収録曲と聴きどころ
『The Perfect Release』は、A面に複数曲を並べ、B面を14分を超える「Survival」1曲で占める構成が印象的だ。長尺曲を置くことで、アルバム全体の重心がかなり変わる。短い楽曲では言葉の切れ味やリフの反復が目立ち、長い「Survival」では、反復の中で緊張が少しずつ積み上がっていく。曲名どおり、生き残り、社会、関係性の圧力のようなものが、音の密度とともに立ち上がる作りだ。
歌詞には資本主義、性、宗教といったテーマが並ぶ。内容だけを見ても当時の一般的なジャズ・ヴォーカル作品とはかなり違うし、歌い方もまた違う。ピーコックはメロディを滑らかに運ぶというより、言葉をぶつけ、間を置き、時にサックスのフレーズのように声を押し出す。その処理が、この作品の輪郭をはっきりさせている。
1979年という位置づけ
1979年という時期を考えると、このアルバムはジャズ、ロック、ファンクが混ざり合っていた70年代後半の空気の中にありながら、そのどれにも完全には回収されない。Jeff Beck周辺のプレイヤーを起用しつつ、結果としてはギターロック寄りの華やかさより、言葉とリズムのせめぎ合いが前に出る。ジャズ・ロックやフュージョンの文脈に置かれることは多いが、ピーコック自身の作家性が強く、ジャンルの看板だけでは収まりにくい。
同時代の作品と比べると、歌唱の扱いはかなり特異だ。フリー・ジャズや実験音楽の側に近い緊張感もあり、スポークン・ワードの感触もある一方で、ファンクのグルーヴはしっかり生きている。この混ざり方が、後年の再評価につながった部分だろう。声を中心に据えた前衛的な女性アーティストとしては、Joni Mitchellの晩年の実験性や、Laurie Andersonのような話法を思い出す人もいるかもしれないが、ピーコックはよりジャズの現場に根ざした手触りを持つ。
評価とその後
発売当時のBillboardはこの作品を「知的で、独自のやり方で魅力的」と紹介し、AllMusicでも高い評価を受けている。のちには、スポークン・ワード、ジャズ、ファンクを組み合わせた先取り的な作品として見直されるようになった。2004年には『My Mama Never Taught Me How to Cook: The Aura Years 1978–1982』にまとめられ、2021年にはModern HarmonicからアナログとCDで再発も行われた。
オリジナル盤は1979年のTomato盤で、印刷されたインナー・スリーブに歌詞が付く仕様。再発盤では音源の再提示という意味合いが強く、ピーコックの声とバンドの配置をあらためて追える形になっている。『The Perfect Release』は、Annette Peacockという作家が、ジャズの枠組みを使いながら、その外側へかなり踏み出していた時期の記録として読める一枚だ。
トラックリスト
- A1 Love's Out To Lunch 2:22
- A2 Solar Systems 3:06
- A3 American Sport 3:43
- A4 A Loss Of Consciousness 3:41
- A5 Rubber Hunger 4:21
- B1 The Succubus 3:48
- B2 Survival 14:51