Red House Painters - Red House Painters (1993)
Red House Painters『Red House Painters』(1993)
Red House Paintersのセルフタイトル作は、1993年にUKの4ADから出たダブルアルバムで、のちに「Red House Painters I」や、ジャケット写真から「Rollercoaster album」とも呼ばれる一枚だ。バンドは1989年にサンフランシスコでMark Kozelekを中心に結成され、のちにスロウコアの重要な流れとして語られる存在になった。ここで聴けるのは、派手な展開を前に出すロックではなく、音数を絞った演奏と、Kozelekの低く乾いた声を軸にした曲作り。90年代初頭のインディーロックの中でも、かなり独自の位置にある作品だ。
4ADとの関係と作品の成り立ち
本作に至る流れは、4ADらしい経緯を持っている。American Music ClubのMark Eitzelが、英国滞在中にジャーナリストのMartin AstonへKozelekの存在を伝え、そこからデモテープが4ADへ渡った。Ivo Watts-Russellはそのデモから曲を選び、まず1992年に『Down Colorful Hill』を発表。その後、バンドを本格的に4ADへ迎え入れ、この1993年作が続く。4ADは当時、Cocteau TwinsやDead Can Danceのような耽美的なイメージでも知られたレーベルだが、Red House Paintersはそこにアメリカ西海岸の陰影を持ち込んだ形になる。
録音は1992年夏から1993年春にかけて、サンフランシスコのディヴィザデロ・ストリートのスタジオで行われた。23曲から14曲を選び、ダブルアルバムとして組み立てたのはIvo Watts-Russell自身だという。Kozelekは、Ivoについて「有用な提案はするが何も強要しない」存在だったと振り返っている。バンド側の素材を尊重しつつ、曲順や収録曲の整理にレーベル側が深く関わった制作だった。
収録曲と聴きどころ
この作品でまず目を引くのは、曲の長さと間の取り方だ。音を埋めすぎず、ギター、ベース、ドラムの配置に余白がある。その空白の中で、Kozelekの声と歌詞が前へ出る。感情を大きく誇張するより、細かい揺れをそのまま置いていく作りで、耳に残るのは派手なフックよりも、言葉の運びやフレーズの反復になる。
代表曲としてよく挙がるのが「Katy Song」だ。後年Pitchforkが1990年代の名曲200選に選んだことでも知られる。メロディは静かだが、曲の進み方には引っかかりがあり、アルバム全体の中でも印象が強い。ほかにも「Dragonflies」「Brown Eyes」「Strawberry Hill」「Funhouse」は、契約前の90分デモテープにすでに存在していた曲で、本作の核になっている。いずれも、完成度の高い“歌”として残っている一方で、録音の空気感にはラフさもある。
ジャケット、盤面、オリジナル盤の特徴
このUK盤は1993年リリースで、レーベル番号はdad 3008。4ADの番号体系ではDADがダブルLPを示すため、まさにこの作品の形式に合った番号になっている。ライナーにはプリントされたインナー・スリーブが付き、歌詞やクレジットの整理も当時の4AD作品らしい丁寧さがある。全曲はMark Kozelek作で、C10のみRobyn Riel-Nailとの共作。出版はGod-Forbid、C10のみGod-Forbid Copyright Control。プレス表記はMade in Englandで、UK盤としての性格がはっきりしている。
マスターノートにある通り、ファーストのセルフタイトル作であり、後年の再発やディスコグラフィ整理の中で「I」と呼ばれることもある。タイトルが同じでも、のちの作品群とは別物として扱われる一枚だ。
同時代の文脈
Red House Paintersは、LowやAmerican Music Clubと並んでスロウコアの源流として語られることが多い。いずれも、テンポを抑えた演奏と、感情を大きく煽らない書き方を共有しているが、Red House Paintersはそこにさらに長尺の構成と、日常の不安や孤独をそのまま置くような詞世界を持ち込んでいる。Mark Kozelekの声はTim Buckleyを思わせるとよく言及されるが、単に声質が似ているというより、語尾の伸ばし方や、感情を押しつけない歌い方に共通点がある。
Kozelek本人は後年、このアルバムを多くの人にとっての好きな作品として認識しつつ、自分にとっては制作中の9か月にわたる不安が強く残る、かなり辛い記憶の一枚だと語っている。作品の外から見ると静かな完成品だが、作り手側には別の時間が流れていたことがうかがえる。
まとめ
『Red House Painters』は、4ADのカタログの中でもかなり異色のアメリカ作品で、インディーロックとスロウコアの接点を示す重要盤として扱われている。派手な展開や即効性より、長い呼吸、抑えた演奏、言葉の重さが前に出る。1993年という年の空気の中で、サンフランシスコのバンドがUKレーベルの編集力とともに形にした、静かなダブルアルバムだ。
トラックリスト
- A1 Grace Cathedral Park
- A2 Down Through
- A3 Katy Song
- A4 Mistress
- B5 Things Mean A Lot
- B6 Funhouse
- B7 Take Me Out
- C8 Rollercoaster
- C9 New Jersey
- C10 Dragonflies
- C11 Mistress (Piano Version)
- D12 Mother
- D13 Strawberry Hill
- D14 Brown Eyes