Wire - 154 (1979)
Wire 1979

Wire - 154 (1979)

Rock Experimental Art Rock Post-Punk

Wire『154』──パンクの先に出た、1979年UKポストパンクの到達点

Wireの3作目『154』は、1979年にUKのHarvestから発表されたアルバムだ。バンド名を知っている人なら、この作品が初期パンクの勢いだけでなく、構成や音響の作り込みまで含めてWireを決定づけた重要作として語られてきたことを思い出すはずだ。タイトルの「154」は、リリース時点で彼らがこなしていたライブ本数に由来する。数字そのものが作品の記号になっているあたりに、この時期のWireらしさが出ている。

前作『Chairs Missing』で見え始めていた変化は、『154』でさらに明確になる。曲は短くても、単純に突っ走るだけではない。テンポは抑えられ、ギターはリフの押し出しだけでなく、余白や反復の中で役割を変える。シンセサイザーやエフェクトも前面に出てきて、パンクの延長線というより、ポストパンクの中でもかなり早い段階で「音の設計」を意識した作品として聴こえる。録音は1979年4月から5月にかけてロンドン西部のAdvision Studiosで行われ、プロデューサーのMike Thorneが深く関与した。彼はしばしば“5人目のメンバー”のように語られるが、その印象はこのアルバムのまとまりを聴くと理解しやすい。

収録曲とアルバムの流れ

オリジナルLPはラストが「40 Versions」で終わる構成だ。ここが重要で、CD盤に追加された「Song 1」「Get Down (Parts I + II)」「Let’s Panic Later」「Small Electric Piece」は、無料配布された7インチEPからの収録であり、元のアナログ盤の流れとは区別して聴く必要がある。『154』の本体は、曲数以上に流れで聴かせるアルバムだ。個々の曲が強く主張するというより、緊張感のある小さな断片が連なって、全体の温度を保っている。

中でも「Map Ref. 41°N 93°W」は、Wireの代表曲としてよく挙げられる。タイトルの地理情報も含めて一筋縄ではいかないが、演奏は鋭く、リズムは明快で、アルバムの中でも輪郭がつかみやすい。「I Should Have Known Better」や「The 15th」も、メロディの見通しと不穏さが同居していて、後年のポストパンクやインディー・ロックに通じる感触がある。ヒット曲という意味では派手なチャート曲ではないが、Wireの評価を支える中心曲としては十分に代表的だ。

当時の位置づけと、後の影響

『154』は、Wireにとって単なる3作目ではない。初期パンクのミニマルな衝動から距離を取りつつ、楽曲構造、空間の使い方、音色の選び方を押し進めた作品として位置づけられる。発売当時から批評家の評価は高く、ニック・ケントが高く評価したことでも知られる。UKアルバムチャートでは最高39位を記録し、バンド史上最高位となった。

このアルバムの影響は、その後の世代にも広く及んだ。ジョニー・マー、ロバート・ポラード、マイケル・スタイプらがWireへの言及を残しているのは有名で、ギターの切り方や、歌とノイズの距離感、曲を短くまとめながら情報量を詰め込む姿勢に、長く参照点としての役割がある。後のポストパンク、オルタナティブ、インディーの文脈でWireが重要視される理由は、この『154』にかなり集約されている。

オリジナル盤の空気感

今回のUK Harvest盤は1979年当時の仕様で、Harvest表記が見当たらないプレスもある。付属インナーは角が四角いタイプで、後年の再発とは細部が異なる。こうした物理的な違いも、オリジナル盤ならではの情報になる。音そのものも、CD追加曲を含まないアナログ本来の並びで聴くと、アルバムの緊張感が途切れにくい。最後の「40 Versions」まで進むと、曲が終わるというより、ある時代のWireがひと区切りを迎えた感触が残る。

Wireはこの後、1980年にいったん活動を止めることになるが、『154』にはその直前の切迫感がはっきり刻まれている。パンクの速度をそのまま引きずるのではなく、解体して、別の形に組み直した作品。1979年のUKロックがどこへ向かうのか、その分岐点のひとつとして見ておきたい1枚だ。

トラックリスト

  1. A1 I Should Have Known Better
  2. A2 Two People In A Room
  3. A3 The 15th
  4. A4 The Other Window
  5. A5 Single K.O.
  6. A6 A Touching Display
  7. A7 On Returning
  8. B1 A Mutual Friend
  9. B2 Blessed State
  10. B3 Once Is Enough
  11. B4 Map Ref. 41°N 93°W
  12. B5 Indirect Enquiries
  13. B6 40 Versions

動画プレイリスト

公開: 2026年8月
Share
戻る

あわせて聴きたい "Post-Punk"

toast