Yaz - Upstairs At Eric's (1982)
Yazoo 1982

Yaz - Upstairs At Eric's (1982)

Electronic Pop Synth-pop

Yaz『Upstairs At Eric's』について

1982年にリリースされたYazの1枚目のアルバム『Upstairs At Eric's』は、英Basildon出身のVince ClarkeとAlison Moyetによるデュオが、シンセポップの形式で強い個性をまとめ上げた作品だ。アメリカではYaz名義で出ており、SireからのUS盤はジャクソンビル・プレス。レーベルはSire 1-23737で、同年のオリジナル期の盤として扱われる。

Yazは、Depeche Mode脱退直後のVince ClarkeがMoyetと組んで始動したユニットで、短期間で鮮明な輪郭を持った。Clarkeの作る硬質なシンセのフレーズと、Moyetの太い声の対比が最初からはっきりしていて、デュオ編成の音楽としても見通しがいい。Basildonという同じ土地で育った二人が、土曜の音楽学校で顔を合わせていたという背景もあるが、このアルバムでは何より、作曲と歌の役割分担がそのまま音の印象に出ている。

収録曲とヒット曲の存在感

このアルバムを語るうえで外せないのが「Only You」と「Don’t Go」だ。どちらも全英チャートで上位に入り、作品全体の注目度を押し上げた代表曲である。「Only You」はシンプルな進行の上にMoyetの歌が置かれ、装飾を増やさずに曲の輪郭を保っている。「Don’t Go」は打ち込みの推進力が前に出ていて、アルバムの中でもリズムの明確さが際立つ。シングル曲だけでなく、アルバム全体がこの2曲の延長線上にあるようなまとまりを持つ。

聴いていてまず感じるのは、音数を絞った作りの中で、低音と声の配置がかなり丁寧なことだ。シンセの音は派手に膨らまず、細い線で進む場面が多い。そのぶん、Moyetの声の厚みが前面に出る。ポップなメロディを持ちながら、安易に明るくならないところがこの作品の性格を決めている。電子音楽やシンセサイザーにありがちな無機質さだけで終わらず、歌の側で温度が入る構成。発売当時に高く評価されたのも、その組み合わせが新鮮だったからだろう。

制作の背景と作品名

タイトルの『Upstairs At Eric's』は、プロデューサーEric Radcliffeの家の2階で録音されたことに由来する。Blackwing Studiosが埋まっていたため、10日ほどで仮設スタジオを組んで作業したという話が残っている。制作現場の制約が、そのままアルバムの密度につながっている印象がある。大きなスタジオで音を重ねた作品というより、限られた空間で必要な要素を積み上げた感じ。そこに、Ericの母親が提供した食事のエピソードや、クレジットにある“Eric's Mum”の存在が重なって、少し生活感のある記録にもなっている。

US盤ではMUTEロゴも見えるが、表記やレーベル配置にはSire流通のアルバムとしての顔が強い。なお、のちにラベル表記位置が異なるUS再プレスも存在する。今回の盤は初期USプレスで、当時のオリジナルの雰囲気をそのまま持っているタイプだ。

同時代の文脈の中で

1982年という時期を考えると、このアルバムは英国のシンセポップが広く浸透していく流れの中にある。Depeche ModeやThe Human Leagueのような同時代のグループと並べて語られることが多い一方で、YazooはMoyetの歌声が前に出るぶん、よりソウルやブルースの感触が残る。純粋な機械的ポップというより、打ち込みの骨格に人間の声の圧をぶつけた形。ここが作品の特徴として目立つ。

発売後、『Upstairs At Eric's』は全英アルバムチャート2位を記録し、BPIのプラチナ認定も受けている。批評面でも評価は高く、当時の音楽誌が電子音楽の表現力に対する固定観念を崩した作品として扱ったのは自然な流れだ。後のエレクトロ・ポップやインディー寄りのシンセポップを聴くと、このアルバムのような「シンセの隙間に歌を置く」作り方が基準になっていった場面は多い。

まとめ

『Upstairs At Eric's』は、Yazの出発点であり、Vince Clarkeのメロディ感覚とAlison Moyetの声の強さが最もわかりやすく噛み合った記録でもある。ヒット曲を含みながら、アルバム全体は派手さより配置の巧さで聴かせる。Basildonから出てきた二人が、1982年のシンセポップの中でどんな組み合わせを作れるかを示した1枚。US盤のSireリリースとしても、当時の新しいポップの空気をよく伝える内容だ。

トラックリスト

  1. A1 Don't Go 3:05
  2. A2 Too Pieces 3:12
  3. A3 Bad Connection 3:16
  4. A4 I Before E Except After C 4:39
  5. A5 Midnight 4:18
  6. A6 In My Room 3:50
  7. B1 Only You 3:10
  8. B2 Goodbye Seventies 2:34
  9. B3 Situation 5:45
  10. B4 Winter Kills 4:01
  11. B5 Bring Your Love Down (Didn't I) 4:41

動画プレイリスト

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