Placebo - Ball Of Eyes (1971)
Placebo『Ball Of Eyes』──ベルギー発、マルク・ムーラン率いるジャズ・ファンクの初期像
Placeboの『Ball Of Eyes』は、1971年にベルギーでリリースされたデビュー・アルバムである。バンドを率いるのは、のちにTelexのメンバーとしても知られるキーボード奏者、作曲家のMarc Moulin。ジャズを土台にしながら、ファンクのリズム感やロックの推進力を取り込んだ作品で、ベルギーのジャズ・ロック史の中でも重要な位置を占める一枚として扱われている。
このアルバムが面白いのは、単に「ジャズにファンクを足した」だけで終わっていないところにある。エレクトリック・ピアノを軸にしながら、ハープシコード、メロディカ、ブラス、ウッドウィンドまで加わる編成で、音の層がかなり厚い。録音は1971年8月23日から26日までCBSスタジオで行われたとされ、同年の空気感を強く残している。ベルギーのローカルなバンドという枠を超えて、当時の欧州ジャズ・ロックが持っていた実験性と、ソウル寄りのグルーヴ感が同居している作品だ。
アルバムの内容
収録は全8曲。Marc Moulinの自作曲を中心に、Marvin Gayeの「Inner City Blues」とSam & Daveの「You Got Me Hummin'」という2曲のカバーを挟んでいる。カバーの選び方だけ見ても、当時の黒人音楽への強い視線が感じられる構成で、ジャズ・ファンクというより、ソウル・ジャズとヨーロッパのジャズ・ロックをつなぐ位置に置かれている。
中でも印象に残るのが、グルーヴの立ち上がりがはっきりした「Aria」、フリー・ジャズ的な導入から曲が大きく展開していく「Planes」、ゆったりしたテンポの中でフレーズが積み重なる「Humpty Dumpty」あたり。派手なヒット曲を前面に押し出すタイプではなく、各曲の中でリズムとアレンジが少しずつ形を変えながら進む作りで、聴きどころが細かく散らばっている。実際に聴くと、前に出るのはメロディよりも、鍵盤の音色とリズムの粘りであることがはっきりわかる。
Marc Moulinという人物の存在感
Placeboは1971年から1976年頃まで活動したベルギーのジャズ・ファンク・バンドで、中心人物のMarc Moulinはこの時点ですでに作曲家、編曲家、キーボード奏者としての輪郭が明確である。のちのTelexで見せる機械的で都市的な感覚とは別に、この時期はもっと生々しく、バンドの演奏の熱量が前に出る。Placeboのオリジナル・アルバムは3作だけで、『Ball Of Eyes』『1973』『Placebo』という並びになるが、その最初の一枚として、この作品は出発点らしい輪郭を持っている。
メンバーにはRichard Rousselet、Bruno Castellucci、Garcia Morales、Johnny Dover、Jean Pierre Onraedt、Nick Kletchkovsky、Nicolas Fissette、Yvan De Souter、Alex Scorier、François Weyer、Frédéric Rottier、Frans Van Dijckらが名を連ねており、固定バンドというより、複数の奏者を組み合わせながら音の厚みを作る体制が見える。ブラスや木管を含むアンサンブルは、単なるリズム隊主導のジャズ・ファンクとは少し違う。
ベルギーのジャズ・ロック文脈で
同時代の欧州では、英国やフランス、ドイツのジャズ・ロックがよく語られるが、ベルギーの作品として『Ball Of Eyes』はかなり存在感がある。派手なロック色よりも、ジャズの即興性とソウルのリズムをつないだ作りで、レア・グルーヴの文脈でも評価されてきた。特にオリジナル曲の評価が高く、カバー曲を含めてもアルバム全体の流れが崩れないところが特徴になっている。
レコードとしては、ベルギー盤ながら「Made in Holland」の表記があり、ゲートフォールド仕様。ラベルには小さな1cmのプレスリングと4cmの大きなリングが確認できる。CBSの当時のヨーロッパ展開の中で出た一枚でもあり、70年代初頭の欧州盤らしい佇まいを持つ。音楽面では、ジャズ、ファンク、ソウル、ロックの境界をきっちり分けずに進む一作で、Marc Moulinの初期キャリアを知るうえでも、ベルギーのジャズ・ロックをたどるうえでも外せないタイトルである。
トラックリスト
- A1 Inner City Blues 6:09
- A2 Planes 2:56
- A3 You Got Me Hummin' 6:15
- A4 Humpty Dumpty 2:31
- B1 Aria 5:02
- B2 Showbiz Suite 7:28
- B3 Ball Of Eyes 2:03
- B4 Oh La La 0:59